だから君にも





とっておき



あかりと会ったのは昨日

頼まれた指導碁を打ちに行った時




「…」
「あ、ヒカル!」


突然現れたあかり

昨日会ったばっかで
しかも一週間くらい前に、指導碁も打った

たまに会ったりすることは、何度か会ったけど

あかりが高校に行って、俺がプロになって

それからは、こんな短い期間で何度もあかりと顔を合わせるなんて

学校に行ってた時以来だ




「いきなりごめんね」
「別にいいけど…」


あかりが来るのは、嫌なことじゃない





「どうかしたのか?」
「あ、うん。あのね」
「昨日のお礼…言いに来たの」
「へ?」


お礼?

それだけのために来たのか?
ひょっとして







「昨日はほんとにありがと」
「いや…別に」


あかりって、こういうこと律儀だ
指導碁なんて、しょっちゅう行く

頼まれれば他の学校だって行く

あかりのはもちろん個人的だから、俺が好きで行ってるやつだから
あんまりお礼言われるのも、ちょっととまどう

あかりにとっての俺が、プロだと思われてる証拠








「そんなに気にすんなよ。行くって言ったの、俺なんだから」


卒業式の日に、あかりと約束した

あかりが囲碁部に入ったら、指導碁に行くこと

これで終わりじゃない

幼なじみだから続いていく時間の絆








「…うん…ありがと」
「うん」


ふわりと笑った



卒業したら会えないって思った

だからせめて会いたくて、手合いがない日は学校に行った

そんなこと知られんのやだから、絶対言わないけど

幼なじみだって

家が近いからって
必ず会えるなんてことはないから

現に俺たちは、指導碁以外では滅多に顔を合わせない

当たり前だ

約束したわけじゃないんだから

確かなものがあるわけじゃないんだから









「またお願いしてもいい?」
「暇な時なら」
「暇だといいな」
「それって負けろってこと?」
「ううん!勝ってほしい!」


あかりがてのひらを握った

ほら

こんな俺のことですら、あかりは一生懸命だ









「今日はお礼言いに来たのか?」
「あ、あのね。それだけじゃないんだけど…」
「?」


あかりは急におとなしくなって、下を向いた

恥ずかしいようなことなのか?


もしかして、あの時のことでも聞かれんのかな

今度聞かれたら、うまくごまかすのは無理だな

とぼけることはできるけど


どう出るのかと、あかりを見てたら
あかりはポケットをごそごそと
何かを探し出した


何だと思って、またしばらく見てたら
見つかったらしい探しモノを
握りしめてた










「ヒカル。手出して」
「?うん」


何の疑いもなしに、手を出すと
あかりはまたふわりと笑って

俺の手のひらにあるものを乗せた










「…碁石?」
「うん!」



何だって碁石なんだ?

俺、持ってんだけど











「それね、ヒカルが囲碁部で最後に打った時に使ってた碁石なんだ」
「え…?」
「筒井さんにお願いしたら、二つならいいよって言ってくれたから…
もらったの」



プロになるために捨てたもの

時々帰りたくなった場所

俺の居場所なんかなくても

帰りたくなった場所


背中を押してもらって

支えてくれた

目標を持って走ったあの頃がある場所

俺の原点











「手合いの時のお守りにしてるんだ」
「お守り?」
「ヒカルにはそんなものって思ったんだけど
少しでも気休めになるといいなって…」
「くれんの?」
「貸してあげるの」
「ははは」



そう言えば昨日
自信のない手合いが控えてるって、あかりに言ったんだった

何だよ

深い意味なんかないくせに

いつも人のことばっかりだ










「とっておきのお守りなの。おまじないもしておいたから」
「さんきゅ」


その行為

ありがたくもらっておくよ


あかりのとっておき

効き目抜群じゃん?









「じゃああたし行くね」
「送ってくよ」
「すぐそこだから平気。帰れるよ」
「そうか?」
「うん。だからヒカルは頑張って!」
「…わかった」



負けられないだろ

やるしかない


あかりがそばにいてくれるってことだから











「じゃあ、お休みなさい」
「気をつけろよ」
「ありがと
あ、また指導碁お願いする時に電話するね」
「おー」



にこりと笑ってから、あかりは駆け出す

今はいいか
このままだって

焦ることなんかないんだ

だってあかりにとって俺は
少しくらいは特別なはずだから

頑張んなきゃな
今度の手合い


とっておきのお守りの効果を期待しますか

だからあかりにとって俺が
とっておきのお守りになれるように

あかりがくれたものを、ゆっくり返していこう

お守りも
俺のとっておき、教えてやんなきゃな







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お誕生日企画4作目・『とっておき』。恋人未満でしたー。
3作目の続きになりました。

とっておきのお守り。お題を見つけたとき、これしか思いつきませんでした。
あかりちゃんにとっても、進藤さんにとってもとっておき。
まだ付き合ってはいないですが、何となくお互いの気持ちには気づいてる感じで。
進藤さんのとっておきは、手合いの前にする『あること』です。
って、姫も何も考えてなかったんですが(ぇ)何となくそんな感じかな、と。
教えてもらったらきっと、あかりちゃんも大会とかで使ったりするんだろうなー。とか思ってみたり。
ではでは次回へ続きますー。



■音羽桜姫



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