溶け込みながら





空気のような




立場の違いなんて、わかってたのに



「あれ?ヒカルだ」


何故か学校の前で見つけたヒカルの姿

聞こえないのに、気づいた反応がそのまま声になる







「あかり」


ヒカルが呼んでくれた名前

どうしているのかとか、そんなことどうでもよくなるような

どっかに飛んでっちゃうくらい、嬉しくなった




「どうしたの?」


ヒカルに近寄ってから、ちゃんと理由を聞いてみる





「んー」
「あたし今日、指導碁頼んでないよね?」
「うん」


こないだ、学校に指導碁に来てくれたばっかり

その前は、あたしがヒカルに指導碁をお願いした

今日は

してない


何も約束なんかしてない

会えることは嬉しいから、不意打ちだって
それでもやっぱり嬉しい


期待はずれだっていい

会いに来てくれたって、思ってみる









「じゃあ何で?」


手合い帰りでも、学校まで来ると遠回り

あたしが学校から駅に
その逆でも一緒だけど

棋院の前を通るのはいつものこと

通り道だから


つまりヒカルがしてるのは、わざわざってこと

それに今日は、手合い日じゃなかったはず

週刊碁に載ってるヒカルの手合い予定は、ちゃんと把握してるつもり










「今日、研究会だったからついで」
「え?でも遠回りだよね?」
「遠回りっても、5分だし」


つまりはやっぱり、そういうことなんだよね











「月曜は部活ないって言ってたからさ。迎えに来てやった」


イタズラっぽい子どもみたいに笑うヒカルは
あたしが知ってるあの頃のままで

何だか少し嬉しくなる

変わっていくものばかりの中で
ヒカルだけは


ヒカルとあたしの距離だけは変わらないこと

それだけを願う












「ありがと」
「うん。じゃあ帰るか」
「はーい!」


信じられない
ヒカルと一緒に歩くのなんて、滅多にないことなのに

それがずっと続いてるなんて


何か嫌なこと。起こらないといいな

幸せなままでいたいと思うのは、勝手なあたしのわがままだけど


秘密なの

この気持ちも
この想いも

ヒカルには伝えるつもりもない、あたしだけの心の中


ヒカルと一緒に駅に向かう途中
手合いのこととか、いろいろ話す

ついこないだお話したばっかりなのに
話はつきないんだね

だって毎日が過ぎて行くから










「そろそろ抜き打ちテストかも…」
「学生は大変だなー」
「人事ー?」
「だって俺、テストないもん」
「手合い自体がテストみたいなものなのに…」
「言われてみればそうかも」
「気づかなかったの?」
「自分の好きなテストは、気にならないんだよ」
「何それ」
「進藤プロ!」


お話してたのに

不意に呼ばれた名前に、会話も足も止まる




振り返ると、女の子が二人いた

見ただけでわかっちゃう

ヒカルに憧れてること












「あの!ファンなんです!」
「あ、どうも…」
「握手してください」
「喜んで」


さっきまでの、あたしとヒカルの空気は
いつのまにか薄らいでく

あたし以外の前でのヒカルは、プロの顔

今あたしが目にしてるヒカルは、遠い人

ヒカルの顔が変わるのと一緒に
周りの空気も変わる


ヒカルは空気のようにその場に溶け込んで

あたしの知らないヒカルになる











「頑張ってください!」
「はい」
「応援してます!」
「ありがとうございます」


でもそうやって笑う顔が作り物だって

きっとあたしだけが気づくこと










「あかり、ごめん」
「ううん」
「行こうぜ」
「うん」


ヒカルが戻ると、空気も変わる

まるでヒカルが空気のように

ヒカル自信が空気のような












「人気者は大変だね」
「そうかぁ?」
「あたしの前では普通なのに」
「あかりの前ではな」
「何で?」
「何でも」
「…どうして?」
「どうしても」


空気のようなその雰囲気は、優しくて遠い

掴みきれない


いつか消えてしまうのかな

だけど、あたしの前でだけは変わらないでいてくれる

微妙だけど確かな、あたしとヒカルの距離






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進藤さんお誕生日おめでとう企画5作目・『空気のような』でした。
企画の内容が恋人未満なので、全部恋人未満でいくつもりです。
4作目の続きです。

進藤さん自体が、空気のような人だということで。
あかりちゃんの前での進藤さんは、変わらないのですが
他の人の前では、進藤さんはプロになるのです。
それは、あかりちゃんだからなのですが、あかりちゃんは何故か気づいてはいません。
進藤さんは、あかりちゃんの前での自分と、プロとしての自分を使い分けています。
最初は難しかったですが、最近慣れてきたもよう(笑)
ただ変わらないのは、二人の回りを流れるのは、「幼なじみ」という変わらないものだけです。

それではでは、次回に続きますー



■音羽桜姫




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