流れる時間は





ゆるやかに





あの時のヒカルの言葉が
忘れられない


『俺が好きなのは』…誰?

いいかけた名前は、あたしに似た名前


「あかり」
って、あたしと同じ名前だけど
あたしだとは限らない

だってヒカルはプロだもん


そういうお付き合いだってあるんだろうし

そこで知り合ったり、紹介されたり

あたしが学校で経験したことを
ヒカルも経験しないとは限らない

世界が広くなったヒカルの周りには
あたしには知ることのできない壁がある


聞きたいけど聞きたくなくて

だけど忘れられなくて引っかかって
何も手につかない









「部長、お疲れさまでしたー」
「えっ、あ、うん。お疲れさまでした」


今日もやっと、一日が終わる

長いって感じるのは、物足りないから?

学校がつまらないわけじゃないの

ただ、ヒカルといる時間が
すごく早く感じるから

ヒカルがいない場所の時間は、長く感じる

きっとそれだけのこと









「あかり。何かあった?」
「何か…?」
「元気ないみたいだけど?」


ああ

あたしって、そんなにわかりやすいの?









「元気がないわけじゃないんだけど、気になってることがあって…」
「それって、あたしが聞いてもいいこと?」
「うん…あのね」
「うん」
「ヒカル。好きな人がいるんだって」
「そうなの?(気づいてなかったんだ…)」
「その人のこと、偶然聞いちゃったの」



行くんじゃなかったって思った

そしたら知ることもなかった

まだ知りたくなんかなかった


今が居心地よかったから

逃げてるって言われたっていい

どんなカタチだっていいの


恋人じゃなくていい

幼なじみのままでいい



一緒にいられれば、それでいいの

ヒカルと一緒にいたいだけなの











「それを確かめるのが怖いんだ?」
「…うん…」


踏み出すのが怖い

もしダメだったら、戻れないから

自信がないの










「でも確かめなくちゃダメだよね?」
「…うん」
「大丈夫。絶対うまくいくよ」
「そうかな…」
「あかり、鈍いから言っちゃうけど
あかりが思ってるより、ずっと状況はいいんだよ」
「…え?」
「あたしは進藤くんじゃないから言えないけど
踏み出したっていいと思うよ」
「久美子…」
「ちゃんと進藤くんに確かめてから
落ち込むのはそれからでいいんじゃない?」


そう言われたら、何だか気分が軽くなった

いいのかな、あたし

ヒカルの中に踏み込んでも









「ありがと。頑張ってみる」
「うん」


後押ししてもらわなきゃ進まない

恋愛は誰だって、臆病にさせる


あたしはヒカルに確かめるために
会えるように棋院の前をゆっくり通った


その時は会えなくて

今日はダメだと思ってたら
やっぱり偶然は起こるもの


ちょうどヒカルのうちの前

でかけるヒカルと会ってしまった









「ヒカル…」
「…あかり」


心泊数が上がっていくけど、怖くない










「学校帰り?」
「うん。ヒカルは?」
「俺はコンビニ行こうと思って・・・」
「そうなんだ」
「うん」
「・・・」
「・・・」


続かない会話と、気のせいかな

ちょっとだけ慣れない空気



いきなり聞くのはおかしいよね

何か…何かきっかけないかな…


気持ちばっかりが焦る










「上がってく?」
「…え?…」
「一局打たねぇ?」


その一言に、思い出したあの日のこと

とまどう気持ちに支えと勇気をくれるのは
ヒカルの言葉だったね










「うん!」


一週間ぶりに、ヒカルの部屋に入った











「おばさんは?」
「買い物だと思う」



ヒカルは碁盤の上に乗ってる週刊碁をどかして
あたしを座らせた


ヒカルを真っ正面から見るのは
やっぱりどきどきする

キレイだもん











「お願いします」
「お願いしますっ!」


打ち始めたら、苦手な空気はいつのまにか消えてた

やっぱり、ヒカルと一緒のこういう時間が好き

ゆっくり流れる時間に、ヒカルを覚えておける









「あのさ…」
「え?」
「この間のことなんだけど…」


心臓がはねた

そうだ

今日はそれが目的で来たんだ


目を閉じないでちゃんと聞こう











「何?」
「うまく言えないけど俺、あかりのこと嫌いじゃないから」
「え、うん?」
「好きな人いるけど…今は言えないんだ」
「…ヒカル?」
「けど!絶対言うから…」
「…うん」
「もう少し待っててほしいんだ」
「……うん」


ヒカルが一生懸命に伝えてくれた言葉

何となくわかった


期待しててもいいんだよね?











「いつか…聞かせてね」
「うん」



ほら
いつもの空気

ヒカルと一緒ならいつだって
包む時間はゆるやか

ゆっくりとゆるやかに流れる時間は
止まらなく続いていく





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進藤さんお誕生日企画作品7段。『ゆるやかに』でした。
前回の続きです。順番に読んでいっていただけると、わかってもらえるかと思います(><)

進藤さんと一緒にいる時間だけは、どんなに忙しくてもゆるやかだと思うあかりちゃん。
進藤さんと一緒なら、どんな時間だって良いのです。
早く感じるのは楽しいから。だから過ぎていく時間は早いけれど、ゆるやかに流れるのです。
二人が一緒にいると、何だか和むような雰囲気が流れてると思います。



音羽桜姫。





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