「2年も・・・ずっと一緒だったんだ」

ヒカルはうつむき、こぶしを握りしめる



きっとあたしが何を言っても
ヒカルのその喪失感を埋めることは出来ない
言葉をかみしめる




「なのに、あいつ
俺に何も言わずに消えたんだ・・・!」




一段とヒカルの声が震えた


手を伸ばして
今目の前にいるヒカルを抱きしめたくなった
言葉にならない




「もっと打ちたいって・・・!
それなのに俺、いつも自分のことばっかりで
あいつにまともに打たせてやれなかった」



悔やんでいるの?



「もっとあいつの言うとおりにしてやれば、
佐為が消えることがなかったのかも知れない」



そんなことないよ




「俺がもっと、佐為の事を考えていたら!」



最後は悲鳴に近かった
ヒカルの頬を涙が流れる


ずっとそうやって悔やんでいたんだね
自分のせいだって
でもね、ヒカル
きっと佐為さんは、ヒカルのこと大好きだったよ
大好きだからこそ、さよならが届かなかったんじゃないのかな?






あたしは胸が痛くなった
ヒカルがそんなこと抱えていたなんて


あたし何も知らないで




「ヒカル、碁打たなくなったときあったよね?」


中学3年の頃
ちょうどあたしたち最後の囲碁大会があったとき


それってやっぱり



「佐為が消えたことを実感したら、打てなくなった
ずっと打ちたいって言ってた佐為が消えて
俺だけ打つなんてできないから」


「俺なんかより、あいつの方がずっと
みんなに受け入れられる強さを持ってるのに」



そんなことないよ



ヒカルは自分を言葉で責め続ける

あたしは何もできない





「あか・・・り?」


ヒカルの驚いた声に、あたし自信も驚いた



「何でお前が泣くんだよ?」


あたし
泣いてる・・・?

頬をなぞってみた
ぬれてる




「何で・・・お前が泣くんだよ・・・!」



何でってきっと

「ヒカルが泣いてるから」

涙をぬぐうことなくあたしは言った


言葉にできない気持ちがそのまま表に出た
それが、涙だったってこと





「ごめんね、気づいてあげられなくて」



傷つけてごめんね


何も知らなくて
わかろうともしなくて
ヒカルが辛い時、何の支えにもなれなかった自分が
情けなくて





「ずっと一人で抱えてきたんだよね?
大好きだったんだよね?佐為さんのこと」



大切だって伝えたくて
一緒にいたくて
それを伝えたいと思う今
そこにその存在は
いない





「お願いだから、そんなに自分を責めないで・・・?」


こんどはあたしの涙が止まることがなくて

あたし勝手に泣いてる
頼まれたわけでもなくて
ただ、涙が出たの




「頼むから、泣くなよ・・・!」


ヒカルはあたしを抱きしめた
痛いほどきつく





「気づいたんだ、後から
佐為は消えたんじゃなくて、俺の中にいるんだって」





「一人なんかじゃないんだって」


ヒカルはそういって、あたしの涙をぬぐった



「あの時のこと、ずっと忘れることはないと思う
だけど、俺は前に進める支えをもってるから」



扇子を優しく見つめる
きっと、何か大切な決意を秘めてるんだね





「あかりもいるしな」



いたずらっぽくヒカルが笑う


そうだよ
これからは、あたしがヒカルを支えるの
何があっても

佐為さんのことだって、忘れなくていいよ
忘れちゃダメなんだよ

ヒカルが忘れてしまったら、佐為さんの存在は消えてしまう




「忘れることないよ。
忘れないで?」


あの人がここに存在した証を


ヒカルだけが持ってるその想い出を
あたしにも少しだけわけて?






「あかり」
「何?」


真剣な顔と声で
あたしを、今度はやわらかく抱きしめて





「ずっとそばにいてくれる?」



もちろん

あたしは言葉じゃなくて、キスで返事を返す
イヤだって言われても、絶対そばにいるんだから

ありがとう
話してくれて
嬉しかったよ
これで少しは
ヒカルに近づけるかな

思い出させてごめんね
でもこれで、あたしも思い出を共有することができたから





ヒカルが笑ってくれるなら
あたしはどんな支えにもなるよ
変わりでもいい
、あたしという存在を必要としてくれるなら
あたしはずっとそばにいるから

だから忘れないで
みんながあなたを大好きだってこと


優しいのは、他の誰でもないあなた
だからもう傷つかないで
悲しいなら泣いていいよ
そばにいるから
寂しい時は呼んでいいよ
そばにいくから
あなたが望むなら、どんな時だって
いつだってあたしはそばにいるから
だからもう、一人で泣いたりしないで
これ以上、自分を責めないで


想い出は忘れちゃいけない
残していけばいいの
いつかきっと、伝わる想いがあるはずだから













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これで終了です。
「もらい泣き」のタイトルの意味、わかっていただけたでしょうか?
進藤さんの涙にもらい泣きするあかりちゃんのお話でした。

想い出は忘れちゃいけません。
たとえ、辛くなるような想い出だとしても。
忘れてしまったら、その存在は消えてしまうから
佐為さんの存在を残しておけるのは、進藤さんだけなんです。
共有することによって、その人だけのものではなくなるけれど
その代わり、また残してくれる人が増えるから
そうやって、積み重ねていってほしいです。



長くなりましたが、最後まで読んでくださった方、お疲れ様でした!
そして、どうもありがとうございましたv











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