2月14日
バレンタインデー
その前日
俺は頭を悩ませていた
幼なじみのことで

毎年明日になると、俺の幼なじみはチョコをくれた
手作りされたもので、ラッピングも自分でやるんだろう
綺麗にされて、俺のもとへと届いてた

それが去年
そのチョコは俺のとこにはこなかった
毎年毎年当たり前のように
あかりからチョコをもらって
俺はお返しなんかあげなくて
もらえるのが当たり前だと思ってたのに


そりゃ、北斗杯にでてから、何か知んないけど人気が出たらしくて
チョコだってもらったさ
だけどこう、何か違うっていうか・・・
調子が狂うっていうか
あかりが遠くなった気がした

それで悩んでいたりする俺がいて

「はぁ・・・」
ため息をついたりして俺らしくないんだけど
やっぱり気になって
当たり前が当たり前じゃなくなるとき
俺とあかりの関係は、どう変わっていくんだろう



考えたって無駄だ
あかりから直接聞くしか答えを知る術はないんだし
明日は手合いがあるし
チョコだとかそんなの気にしてる場合じゃない
明日に集中しなくちゃ

俺は混乱する頭を落ち着けるために
眠りについた



当日
ひょっとしたらあかりからメールがきてるかも
なんて、携帯を見てみるけど変わりはなくて
重たい身体を起こし、食欲のわかない胃袋に朝飯をつめこみ
棋院へと向かった


手合いに集中してるときは忘れていられる





「打ちかけにして下さい」


その言葉で、俺は再び現実に戻る

(メシだ)

頭を切り替えて外に出た


一人になると考えてしまう
今日も半日が過ぎた
今日は土曜日
学校は休みのはず
くれるならひょっとして、棋院まで渡しにきてくれるかも
イヤ、夜渡しにくるかもしれない

何で俺、こんなことばっかり考えてるんだよ
あかりからもらえないのが何だっていうんだ?
別におかしいことじゃない
あかりだって高校生になったんだし
別々の道を歩いてる
今までの二人じゃないことは
俺だってよくわかってる
なのにどうしてこんなに気になるんだろう

食事もあまり通らず、俺は棋院へと戻った

外には奈瀬がいて
さっきまで誰かと話していた雰囲気だった

俺は声をかける

「奈瀬?何してんだ?もうすぐ時間だぞ?」
「あ、進藤。あんたこそゆっくりしてんじゃない」

奈瀬が振り返る

「今、誰かと話してなかった?」
「あんたのファン?もてる人は大変ね。」

突然何言い出すんだよ
俺がいつもてたって?

「何だそれ。
どんなやつだった?」

少しの期待を抱いて


「どんなって…
赤っぽい茶髪で、肩より少し長めで…かなりの美少女!」

奈瀬の言葉に俺の心臓が高鳴る
あかりだ

「赤っぽい茶髪?…あいつ来たのか…?」
「何?知り合い?約束でもしてたの?」
「約束はしてねぇけど、知ってるやつかもしんなくて」

幼なじみの特徴を
俺が間違えるはずがない
誰よりも近くで見ていたから


「あんたの知り合いに、あんな可愛い子がいたなんて。」

余計なお世話だ

「何だよ?」
「…彼女?(にや)」
「ばっ…!そんなんじゃねぇよ!人違いかもしれねぇし。」
「もらいたい人でもいるの?」
「違げぇよ!」
何で女って、そういう話にもっていくのが好きなんだ?



ふと時計を見ると

「わっ!やべ…時間!」
「ウソ!?」
「いいから走れ!」
「待ってよ!」

走り出した俺を奈瀬が追いかける

午後からはいつもの調子を取り返し
今日も勝ち星をあげた


帰ったらあかりに聞いてみよう
うぬぼれだって思われてもいい
やっぱり誰よりも
あかりからもらいたい
そう思った






俺はまっすぐにあかりの家へと向かう
インターホンをならすと、中からおばさんの声がして


「あら、ヒカルくん」
「こんばんわ」
「どうしたの?」
「あかり、いますか?」
「あかり?ちょっと待っててね」

そういとおばさんは、二階に向かって声をかけた

するとすぐにあかりの声が聞こえて
あかりが降りてくる
そして俺の顔を見て一言


「ヒカル?どうしたの?」


そりゃねぇよな
やっぱり、俺にくれる気はないんだろうか

イヤイヤ、自分で考えてたって仕方ない
これからそれを確かめるんだから


俺は
『よ』
平然を装いあかりに挨拶をした




「あがってく?ヒカルくん」
「あ、おかまいなく。」

おばさんが声をかけてくれたけど
俺はあかりに用があってきたんだし


「残念。
ヒカルくん最近、調子がいいみたいね
連勝続けてるんですって?」
「いえ、偶然です」
「そんなことないわよ!」
「いえ、ほんとに」



おばさんと少しだけ会話をして
あかりの方へと向き直る



「あかり?今から外出れる?」

と、誘いをかけてみる


「え?あ、うん。大丈夫だけど」


あかりからのOKをもらい俺は


「帰り、ちゃんと送りますから」

と、おばさんに挨拶をして
あかりを外へと連れ出した




「じゃあ行くぞ」


俺の言葉に、あかりは俺の後をついてきた





「寒いな」
「まだ2月だよ?」


何だよ、せっかく気を使って(?)話しかけてやったのに。

後ろをついてくるあかりを、俺は振り返らずに
目でだけ、その存在を確かめる

「何処に行くんだろう」
とか考えてるんだろうな
ほんとこいつってわかりやすい




俺は足を止めた
そこは、あかりとよく遊んでた近所の公園

特に意味はないんだけど
何となくここに来たくなったから




「あかり」

俺は振り返り、あかりの名前を呼んだ

「何?」


あかりはびっくりしたような顔で俺を見る

突然こんなとこに連れ出して、何だって思わないほうがおかしいよな
とにかく、確かめなくちゃ


「お前、今日
棋院まで来た?」


俺の問いに、あかりはただでさえでかい目を
さらに大きくして俺を見た

答えは帰ってこない
俺は、奈瀬が話していた相手を確かめるため



「奈瀬がさ、・・・って
奈瀬って、院生の人なんだけど、
俺に客が来たって教えてくれて
赤っぽい茶髪って言ってたし」

正直に話す

「お前じゃないのか?」
なんて直接は聞けない
こんな質問をしているあたり
ばればれなんだろうけど




俺は自分で言ってて、顔が赤くなっていくのがわかった
すごい女々しいかも、今の俺
もらえる、もらえないを気にして
今日一日、あかりのことを考えて



「今日・・・バレンタインだし。」
俺の言葉に、やっとあかりから返事が返ってきた

「気づいてたんだ?」
「どういう意味だよ」
「ヒカルって、そういうこと鈍いと思ってた」


俺をばかにしてるな

『あのなぁ』
と、あかりの頭をこづいた
何故か懐かしい感覚にとらわれて
「何年ぶりだろう」なんて考えてしまった
気づいたら俺より小さくなってた幼なじみ
俺とは違う「女」なんだって
去年
いや、今になって気づいたのかもしれない





「お前が悪いんだぜ?
去年くれなかったから」


俺だって、一応男なんだぜ
やっぱり気にするよ

ここまで言ったらもう、どう思われたって構わない
正直に言って、もらえないなら仕方ないから
チョコとかそんなのどうでも良くて
ただ、あかりに会いたかった
そんなかっこ悪い口実だっていい






「どうせ別の人からももらったんでしょ?」

すぐさまあかりから厳しいツッコミが入る

俺のまっすぐな言葉も届かず(笑)
あかりはアホなことをぬかしやがるし
ここでうなだれたら、俺の負けだ



「もらってねぇよ」
「あかりからもらえないの、調子狂う」


くれって言ってるようなもんな
さすがにあかりだって気づくだろうな
顔を見ると、少しだけ赤く染まってて
困ってるようにも見えた

俺だってどうしていいかわかんねぇよ
何でこんなにあかりが気になるのか
誰でもいいから、教えてくれるなら俺は頼っていくだろう
でもわからないからどうしていいかわからない
俺自身が、今何を言っているのか、よくわかってないのかもしれない
ただ一つわかるのは
あかりからほしいって思ったってこと




「ヒカル」

あかりから突然名前を呼ばれ、
俺ははっと我に戻る


あかりはコートのポケットから小さな包みを取り出し
俺に向かって差し出した

「あげる」

一瞬 耳を疑う

「あげる」って
今、「あげる」って言った?
目の前の包みは、俺に向けられている
間違いなく

あんだけ気にしてて、答えはこの一言

何だか嬉しいやらむなしいやら
嬉しいんだけど
悩んでたこととかもう、どうでもいいや
去年くれなかったこととか、どうだっていい



「サンキュ」

俺はあかりの手からチョコを受け取る

「食っていい?」

包みを両手で包んで一言

「今?」
「そ、今。
腹減ってんだ」

あかりの返事を待たずに、包みをあける
中身はショコラで

一つつまんで口に入れた


「おいしい?」
「うまい」



結局もらえたんだからヨシとしよう
怒らせるのはイヤだから
「何で去年はくれなかった」
とかいう質問はやめておこう

来年はまたどうなるかわからないけど
考えなくてももらえるように
少しは俺自身が成長しなくちゃ
こんだけ言って気づかないあかりもなんだけど
言ってない俺もなんだけど

正直な気持ちに気づくのは
もう少しあとの話。







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バレンタイン小説「Bitter or sweet」のおまけです。
おまけなので、使われているセリフはそのままです。

進藤さんは、バレンタインの時、こんなことを考えてました。
女の子の日なので、あかりちゃんSIDEで描いたんですけど、
急におまけを思いつきました。
進藤さんは、あかりちゃんが好きだということに、まだ気づいてはいません
認めたくないだけかもしれませんが。
気づくのは、ホワイトデーで。
気持ちを伝えるのは、さらに後になりそうです。
頑張れ、進藤ヒカル!(笑



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