2月13日
明日はホワイトデー
ヒカルにチョコを渡したバレンタインから
明日で1ヶ月が過ぎようとしていた

去年は渡せなかったけど
今年はちゃんと渡すことができて
少しだけヒカルの気持ちを知ることができたバレンタイン
結局「好き」とはいえなかったけど
ヒカルの気持ちが嬉しくて
あたしには忘れなれない日になった

ヒカルにチョコをあげるのは恒例行事
最初は「幼なじみだから」って思ってた
だけどどんどん、あげることにどきどきしてる自分に気づいて
それを認めたくなくて、気づかないふりをしてた

それを認めたのは、ヒカルにチョコをあげる女の子を見たから
幼なじみとしてじゃ、いつか終わりが来る
大事な存在は変わらないけど、それだけじゃイヤだって思った
いっそなくしてしまうなら、気持ちだけは伝えたい
そう思った

ヒカルは忙しい
一ヶ月に一回会えればいい方
会いたくても会えない
でもわがままは言いたくないから

明日はホワイトデーなんだけど、たぶんヒカルは覚えてない
いつもあげるのはあたしだけで
別にヒカルから何かほしくてしてるわけじゃないから
あたしがしたくてしてることだから
「お返しはいらない」って毎年言ってるし
ヒカルにとって、あたしはきっと幼なじみ
何ももらえなくていいから
ヒカルに会いたい


その日あたしは囲碁部の先輩の家に遊びに行ってた
「大会のために、特訓しよ!」
って言われて

その先輩は、ヒカルと同期でプロになった
和谷さんの彼女さん
偶然同じ高校で、同じ囲碁部で
同じ囲碁バカな幼なじみを持つということで
あたしと先輩は、すぐに仲良くなれた
この高校で、あたしとヒカルが幼なじみで
あたしがヒカルを好きなことを知ってるのは
久美子と先輩だけ

「先輩って、囲碁上手ですよね」
さすが部長を務めるだけあるなーって思う
「善くんによく、指導碁打ってもらってるから」
「あたしもヒカルに教えてもらうんですけど、ヒカルって教えるのヘタで」
「あはは」
「笑い事じゃないですよ。
ここかなって思うところに打つと
『お前、何でそんなことに打つんだよ!
石取られたいのか!?』とか、そんなことばっかり言って
たまにいい手打つと、『まぁまぁだな』とか」
「進藤くんらしいよね」

ヒカルは、絶対にあたしをほめてくれない
それはたぶん、きっとあたしのため
わかってるから、嬉しい

「でもね、善くんも最初はそんなんだったよ」
「そうなんですか?」
以外な先輩の言葉に、あたしは驚いた
だって和谷さんって前にあったとき、すごく面倒見がよさそうで
「いい人だなー」って思ったから
別にそんな言い方するからいやな人ってわけじゃないんだけど
現に、どういう言い方をされても、
あたしがヒカルのことをイヤだと思った事がないように

「うん、付き合う前はそんなことばっかり言われてたよ」
先輩は苦笑しながら言った
あたしの知ってる和谷さんと、全然イメージが重ならないんだけど
「変わったのは、付き合い始めてから」
「付き合い始めてから?」
「うん、優しくなった」
先輩はほのかに頬を赤くしながら
あたしに話をしてくれた

「善くんと付き合いはじめて3年かな・・・
あたしも善くんの影響で碁を始めたの
ずっと一緒にいたのに、善くんだけどんどん先へ進んでいって
おいていかれるのがイヤで必死になって
何かつながってるものがほしくて
最初はそんなつまらない意地で始めた
でも、少しずつ楽しくなって
善くんと、共通の話ができるようになって
気づいたら、好きでしょうがなくなってた
碁を打ってる善くんが好き
頑張ってる姿を見るのが好き」


そうやって話す先輩は、すごく幸せそうで
でも同時に切なくなった
先輩の話は、あたしが抱えていた気持ちと同じだから
ずっと一緒だった
でも、いつまでもそれは続かない
何でもいいから、たった一つ
つながっていたい

「ねぇあかりちゃん?」
先輩はいつの間にか、碁を打つ手をとめて
あたしを見た
「幼なじみの殻を破るのって、すごく勇気がいると思う
いつまでもそこにいたいって思う
傷つくの怖いから
だけどね、一歩踏み出せば、何も怖くないんだよ
進藤くんをもっと信じてみようよ」

きっと大丈夫だから

先輩はそう言って笑った
自分が経験したことだからかな
先輩の言葉は、あたしの胸に響く


「バレンタイン、あげたんでしょ?」
先輩に尋ねられ、あたしはうなづいた
「進藤くんね、次の日絶好調だったって、
善くん言ってたよ」

あたしは驚いて先輩を見た
あたしの顔を見た先輩は
にっこり笑って話を続ける

「バレンタインの日、進藤くん全然落ち着きなくて
手合いもかろうじて勝ったって感じで。
午後なんか、何か気にしてるみたいで、
ちっとも集中できてないっぽかったって。」

ヒカルが?
いっつも囲碁のことしか頭になくて
集中してると、人の話も耳に入らないヒカルが?

「男の子って、不器用なんだよ」
「不器用?」
あたしは先輩の言葉を繰り返した

「うまく言葉に出すことができないの
でもそれは裏返せば、相手を大切に思ってるから」

先輩の話は、まるでヒカルがあたしを好きだって言ってるみたい
そんなことを考えてしまうあたり、ずうずうしいんだけど


「幼なじみだからこそわかってる
だけど、付き合い始めて
初めて見えることだってあるんだよ」


大会の特訓のはずが、いつの間にか恋愛相談へと変わっていて
気がつけばもう、外は茜色に染まってた



先輩の家からの帰り道
あたしはいろいろ考えた
先輩ってかっこいい。
和谷さんのこと、ちゃんとわかってる
もしあたしも、先輩みたいになったとき
ちゃんとヒカルのこと、わかってあげられるのかな



ふと顔を上げてみると
ヒカルが
誰か友達の家に遊びに来てたのかな
ちょうど帰るところみたいだった
あたしは一緒帰ろうと声をかけようとした
瞬間
家の中から出てきたのは

「奈瀬・・・さん?」

バレンタインの日。
あたしが声をかけた女の人
たしか、院生だってヒカル言ってた
何でヒカルが奈瀬さんの家から出てくるの?
院生仲間だって言ってたけどヒカル・・・

あたしの頭の中は、もうそれだけでいっぱいになって

美人だもんね、奈瀬さん。
ヒカルだって「仲間」だなんていってたけど、
奈瀬さんのこと好きなんだ
きっと二人は、付き合ってる・・・
んだよね


泣きたくなんかないのに
涙はとめどなくあふれてきて
失ってしまった
何も言わないまま
何であの時、ちゃんと言わなかったんだろう
後悔ばかりが押し寄せて

イヤだよ、ヒカル
あたしはヒカルのこと・・・


うちに帰ってからも、涙は止まらなくて
親は心配してたけど
大丈夫
すぐに元気になるよ
幼なじみでいられるなら
全てをなくしたわけじゃないから

だけどやっぱり、失恋は痛い
せっかくのホワイトデーなのに
お天気もいいのに
あたしの心だけが晴れない

悲しくて泣いてたあたしの心は
いつの間にかヒカルへの怒りに変わってた

「彼女がいるのに、何であたしからチョコもらうのよ」
って。
彼女なのに、「院生仲間でさ」
とか言ってたり
正直に言ってくれればいいのに。
怒りもいつしか、切なさへ変わって

突然携帯が鳴り出し、あたしはあわてて出ようとした
躊躇したのは、表示されたのが
「ヒカル」という文字だったから

何でこういう時に限って、電話かけてくるのかしら。


深呼吸
ひとつ間をおいて
「もしもし?」
電話の向こうに話しかける
あたしの心臓は沸騰状態
『あかり?今からちょっと外出れない?』
電話からいつもと変わらないヒカルの声が聞こえた
思いもよらないヒカルからのお誘い
あたしは迷わずにOKをだしてしまった

「バレンタインの場所で待ってるから」

ヒカルは用件だけ告げて、電話を切った
あたしは切られた後に、後悔をする
何でOKしちゃったのかな
今はなんとなく会いたくないって思ってるはずなのに
失恋したばっかりなのに

信じてみたくて
違うよって
奈瀬さんは彼女じゃないよって
口から聞きたくて
違う答えが返ってくるかもしれないと思っても
やっぱりヒカルに会いたかった





「ごめんね、遅くなって」

待ち合わせ場所に走っていくと、ヒカルはもうそこにいて

「いいよ、そんなに待ってないから」

そうやって交わす会話はまるで、恋人同士
言う相手が違うよ、ヒカル


「ヒカル今日、手合いは?」

気持ちと息を落ち着かせて
あたしはヒカルに尋ねた

「今日は、休みなんだ」

当たり前に答える

「ふーん…」

何でこんな日に呼び出すの?
あたしの頭の中は、それしか考えられなくて
返事も短いものになってしまう

落ち着いてるはずなのに
落ち着いてるつもりなのに
心臓は早鐘を打ち続ける


「とりあえず、座らない?」

とにかく落ち着きたくて
あたしはベンチを指差す

あたしが歩き始めると
ヒカルはあたしの後をついてきた
いつもは逆なのに
ヒカルの背中が前にないのが
すごく変な感じがした


ベンチに座ると、ヒカルは当たり前のように
あたしの隣に座る

すごく緊張する
落ち着くどころか、ますます音は大きく
早くなっていく
(落ち着け、落ち着け)
と何度も心の中で呪文のように唱えて
何とか落ち着こうとする

「ふぅ」

ヒカルに気づかれないように小さくため息を吐く


「あかり」

ヒカルに突然話しかけられ
せっかく少し落ち着いた心が跳ね上がる

言われた瞬間
「昨日の、女の人
奈瀬さん・・・だよね?」
あたしの口からとっさに、奈瀬さんの名前が出る

いきなり要点ついたらばればれだよ

そう思ったけど、勝手に言葉が出ちゃったから
言い切るしかない

呼んだだけなのに
逆に質問されたヒカルは
一瞬固まったそぶりをした
昨日のことを思い出そうとしてるんだろう


「昨日?」
言いながら首をかしげるヒカル
「何で知ってるんだ?」
って顔してる

「昨日、見たの
ヒカルが奈瀬さんの家から出てくの」

正直に言ってみると
ヒカルは少しあわてたように

「あれは・・・」

と口ごもった
いいのに
知ってるのに
はっきり言ってくれていいのに
何で言ってくれないの?
「幼なじみだから、教えて?」
なんて、冗談でも口にしたくない


ヒカルの返事を待たず
「奈瀬さんって、ヒカルの彼女なんでしょ?」
あたしは急かすようにヒカルを問い詰める

「は?」

あたしのその言葉に
ヒカルはまたも固まった

あれ?違うの?
ヒカルの反応にすこし驚いたけど

「良かったね、あんな可愛い彼女さんができて
何で教えてくれなかったの?」

もうここまで言っちゃったんだ
後には引けない
聞き出してやるんだから
はっきり聞くことができれば、
あたしの気持ちにも区切りがつく
知っちゃった時点であきらなくちゃいけないんだけど
あたし、そんなに聞き分けのいい女じゃない


ヒカルは黙った
言葉一つ一つを選び出そうとしてるかのように
真剣な表情になる
碁を打っているときのような
ドキっとするまなざし


「あかり、俺、好きな人がいるんだ
奈瀬じゃなくて
それに奈瀬は、伊角さんって人と付き合ってるんだよ」

ヒカルはゆっくりといった
少し間をおきながら


奈瀬さんはヒカルの彼女じゃない?

「ふーん」

あたしの中に少しの安心感と大きな不安がよぎる

じゃあ


じゃあ



「じゃあヒカルの好きな人ってだれ?」

まっすぐに質問する

「誰って言われても・・・」

あたしたちの間に
沈黙がよぎる
こういう時間ほど、息苦しいものってない
だけど、それを作り出したのはあたし


簡単に教えてくれないことくらい
知ってる
少しでいいの
ヒカルは誰を思ってるの?



「あかり」


その沈黙を破ったのは
ヒカルの声
透き通る声であたしの名前を呼ぶ
あたしをまっすぐに見てる
今、ヒカルの目には
あたししか映ってない

あたしの目にもヒカルだけ
そらせないその視線に
あたしは一点集中する



「今日、何の日か知ってる?」

ヒカルの問いは唖然とするものだった


「3月14日?」

とりあえず返事を返す



「今日、ホワイトデーなんだ」

うん、知ってるよ
でも言葉には出さない


「はい」

突然目の前に包みが出された
ヒカルの手のひらにのってる
小さな可愛い箱


「え?」

何?これ


あたしは、ヒカルを見た
少し顔が赤いような気がするのは気のせい?
でも、だって・・・


「今日、ホワイトデーだから
お前、バレンタインくれただろ?
俺、一回もお返しなんてあげたことなかったけど」

ヒカルはそう言って照れ笑いする
ずるいよ、ヒカル


「あかり?」

ヒカルに名前を呼ばれて
あたしは涙があふれて

でもそれは
昨日の涙とは違うもので


嬉しい
ヒカルからはじめてのプレゼント

とまらない涙にヒカルはおろおろするばかり
たまにはいいよね、そういうのも

ふと暖かいぬくもりがあたしを包み込んで
涙が止まるまで、そのぬくもりはあたしのそばにいた



「ありがと、ヒカル」

目は赤いし、すごい顔してるけど
あたしは心からのお礼をヒカルに


「あけていい?」
「いいよ」

ヒカルの了承を得てから
あたしは包みを開けた
中身は
ちょっと焦げっぽいクッキー

なんだか無性に笑いがこみ上げた
ヒカルが苦戦しながら作ってるのが思い浮かんだから



「ヒカルが作ったの?」

「俺が作ったの
心して食えよ?」

えらそうなこと言って
きっと一生懸命作ってくれたんだよね
あたしのために
って思ってもいいかな



でも

「もったいなくて食べれないよ」
「食えよ!」
「じゃあ、一緒に食べよ?」








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はい、ひかりホワイトデーのおまけです。
ホワイトデー前日に当日
あかりちゃんはこんなことを考えてました。

和谷さんの彼女、夕依さん。
ついに出しちゃいました。
出すつもりなかったんですけど、気づいたらいたんです(笑
夕依さんは、あかりちゃんの良き理解者さんです。
いろいろ相談したりもしてます。
夕依さんは、進藤さんと会ったことありますよ。
和谷さんが良く
「手のかかる弟だ」っって言っているので、
夕依さんにとっても、進藤さんは弟のようなものです。


ちょっと中途半端な終わりにしてみました。
一緒にクッキー食べましたよ(^^



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