どんなカタチでも
あなたといられることが
あたしには何よりも嬉しいの




サクラドロップス    〜後編〜



「昨日、一緒に花見行こうって言ったら、
あかりのヤツおおはしゃぎでさ」


昨日の夜
花見の件であかりにある提案をしたヒカル
思った以上に明るいあかりの態度に、どうも釈然としない気分に陥っていた

「別にいいじゃん。喜んでくれたならさー」
和谷の言うことももっともなのだが、何かすっきりしない
あかりの笑顔を見るのは好きだ
だけど、自分と花見に行けるのが嬉しいのか、みんなで行くことが嬉しいのか
そこがどうもわからないから悩んでしまう
(二人っきりで行くの、イヤなのかな)
悪い方向へと考えも向かう



「おーい!」
ヒカルにとって、余計な提案をしてくれた門脇が歩いてくる
「花見のことだけどな」
用件だけを述べる
「夜桜見にいくからさ、場所はここだ」

そう言って、コピーした紙を渡した

「進藤、ちゃんと彼女連れてこいよ」
「わかってらぃ!」
「頑張れよ、進藤」
「和谷、お前も連れて来い」
「はい!?」

自分だけが彼女を他の男に見せるのはいやで、ヒカルは和谷も巻き込む


「おっまえ・・・っ!」

その意図を見抜いた和谷は、ヒカルに文句を言おうと口を開くと
「そうだな、それがいい!」
門脇はまたも一言で、和谷を黙らせた
黙らせたというよりも、反抗する間を与えないだけだったり
「門脇さん・・・」
「花見には別の花も必要だからな」
「塔矢も誘おうぜ!」
勝手に話が進みそうである
巻き込まれる人数は、もう一人増えそうだ


昼休み、ヒカルは昼も食べずに休んでいる塔矢を見つけ
駆け寄る

「塔矢ー」

ぎくり

ヒカルに声をかけられた塔矢は、一瞬からだがこわばった
何故か背筋に寒気を感じ、イヤに気分になったからだ


「何か用か、進藤」

それでも平静を装って振り返る

「こないだ門脇さんが言ってた花見のことなんだけどさー」

(きた)


やはり自分も巻き込まれるのかと、密かに覚悟を決める

「和谷も彼女連れてくることになったんだ」
「だから?」
「お前も連れてこいよ!」


(やっぱり)
塔矢は心の中で涙した


「場所はここな」

ヒカルはそれだけ言い残し、
呆然とする塔矢をその場に残し帰って言った


(あいつはトラブルメーカーだ)

塔矢はこのときほど、ヒカルのことをそうは思わずにいられなかったとか




花見当日の朝

「いいか、あかり。
今日棋院から一緒に行くから、6時にちゃんと来いよ?」
「わかってるわよ!6時でしょ?
ちゃんとお弁当作って行くからね」


「子供じゃないんだから」
くすくすとあかりが笑う
朝、出勤前に、あかりと花見の最終確認をする
ちょっと気が重たいけど、あかりが楽しそうにしているのを見るのは嬉しい



「じゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」

頬にキスを一つ
ヒカルは棋院へと向かった

いよいよ花見の日を迎えた
勝手に決められたといえばそれまでなのだが、
あかりを喜ばすことができるかと思うと、今日の手合いにも気合が入る



傍から見てもわかるのか
「今日はえらく気合が入ってるな」
と和谷に言われた

「今日だな、花見」
「ああ。」
「夕依さん来るのか?」
「ああ、夕依も楽しそうだったよ」


和谷が皮肉っぽく笑いながら言った
ヒカルもつられて苦笑い
そうなってしまったのは、自分にも責任があるからだ
でも悪いとは思っていない


「おはよう」

後ろから塔矢が話しかけてきた
巻き込まれた人がここにも一人
顔はうかない表情をしている
無理もない
一番無関係で巻き込まれたわけだから

「今日花見だな」

そういうと、塔矢は遠い笑みを浮かべて対局場へと入っていった

「俺のせいじゃないよな?」
「ああ。」
門脇に罪をなすりつける
「大丈夫かな?」
「何が」
「塔矢。今日の手合い」
「・・・多分」

二人も対局場へと向かった

もちろん手合いは、中押し勝ち
いつもどおり検討を行い

つまらない話をして
あかりとの待ち合わせまで、あと1時間。



ヒカルが棋院で検討をしているころ、あかりはお弁当を作っていた

「玉子焼きでしょー、それから・・・」


中身はヒカルの好きなものばかり
ふと時計を見ると、針は5時半をさそうとしていた

「いけない、遅れちゃう!」


あかりは、慌てて弁当を包み、家を出た
思ったよりも重く、スピードは遅くなる

それでも何とか電車の時間には間に合って
ゆっくりだが、棋院へと向かった
荷物が重く、あまり顔を上げて歩けない


一方ヒカルは、そろそろあかりが来る頃だろうと
棋院の前で待っていた
向こうから、大きな荷物を抱えたあかりが来るのが見えて
ヒカルは駆け寄った



「あかり!」
その声に、あかりは顔を上げて
「ヒカル!」
思わず叫んだ

「何、その荷物」

ビックリするほど、あかりの荷物は大きい
うちからこの荷物を一人で運んできたのかと、疑ってしまいたくなるほど




「何って、お弁当
ヒカルの好きなもの、作ってきたよ!」

あかりがにこりと笑って言った
ヒカルはそんなあかりが可愛くて、抱きしめたい衝動にかられるが、
ここではできないと、自分を抑え
「持つよ」
そう言って、弁当の包みをあかりの手から離す
「ありがと」
あかりの一言を聞いて、ヒカルは再び棋院へと歩き出し、あかりはそれに続いた




「お花見、どこに行くの?」
「ん、結構有名なとこみたいだぜ?」
「場所取りとかしなくて大丈夫なのかな?」
「大丈夫だろ」
「座ってお弁当食べれる?」
「どこでも食べれればいいだろ」
「もう!」
あかりはふくれっつらになりながら
「せっかく作ったんだから、落ち着いて食べたいよ」
小さい声で文句を言う
もちろんヒカルにはちゃんと聞こえて
「大丈夫だろ、ちゃんと考えてくれてるよ」



『弁当作るって言ってあるからさ』
ヒカルが言うと、あかりはほっとした顔になった
それをみて、ヒカルも安心する
自分も出来れば、ご飯くらいは落ち着いて食べたい
ご飯と言うよりも、その他はおそらく
(ビールを飲むと思う)
ヒカルは心の中でだけ思った




棋院に着くまで、どうでもいいことをあかりと話し
入り口までたどり着くと、そこではもう、みんなが待っていて



「あかり、連れてきたよ」

後で遠慮げに立っているあかりを、皆に紹介する
一部知っている者もいるが
「藤崎あかりです。」
あかりはヒカルに紹介され、挨拶をする

「可愛いじゃん」
門脇はそっとヒカルに耳打ちをして
赤くなるヒカルに、声をこらえて笑った



「じゃあ、行くか!」



大人数でぞろぞろと電車に乗り
駅から歩いて5分ほどすると、桜並木が見えてきた


「キレイだね」
隣を歩いていたあかりが、ヒカルの袖をひっぱり話しかける

「ああ」


そう返事をするしかないくらい、そこから見える桜だけでもキレイで
結構な穴場なのだろう
そこへ向かう人も少なくはなくて
「はぐれるなよ」
ヒカルはそう言いながら、あかりに手を差し出す
あかりは少し照れながら、ヒカルの手をとった


「優しいねー、進藤君v」
門脇にからかわれ
「うるせぇやい!」
乱暴に答える
そんなヒカルをみて、笑う人がそこにもここにも
「・・・」
あかりはそれを見て、ヒカルにばれないように静かに笑った




「ここ、ここ!」
門脇が立ち止まった先は、桜がよく見えるいい場所で


「こんなとこいいの?」
ヒカルが聞くと、そこには先に座っている人が
「先客いるじゃん!」
「いいんだよ、俺が場所取りさせたんだから」

門脇はそういうと、そこに座っていた人に向かい


「お前、もういいよ」
と、引導を言い渡す
その人は、門脇からお金を受け取り帰って行った
「さ、花見始めようぜ!」





みんなが少しずつ、ビニールシートに腰をかける
あかりはヒカルの隣へ
「何だよ、みんなして彼女持ちでよー!」
門脇の言うとおり、和谷の隣にも伊角の隣にも
そしてあろうことか、塔矢の隣にも、女の子が座っている
「寂しかったら、門脇さんも早く彼女作りなよ」
和谷に言われて、門脇は本気で悔しそうな顔をした
「くそー、ヤケ食いしてやる
いいよ、大人は大人で楽しむから」
そう言って、彼女が隣にいない人たちの肩に手を回す


(そんなこと言ってるから、彼女できないんじゃ)
と思うが、あえて口には出さない
そうは思うけれど、門脇は本当にいい人だと思うし、頼りにもなる
どうして彼女がいないのか、不思議に思ってもいた
深くはつっこまないが、早く彼女ができればいいとは思う



「あの、あたしお弁当作ってきたんですけど・・・」
あかりがそう言って、大きな包みを差し出した
「おー!」
皆から、歓声があがる
「進藤、いい彼女持ったなー!」
そう言われ、照れるヒカルとあかり
それを見て
「進藤、お前、何か飲み物買ってこい!」
「へ?」
「いい彼女がいるんだ。それくらいしてくれよ」
(どういう意味だ)
と思ったが、ヒカルはしぶしぶ飲み物を買いに行った



ヒカルが飲み物を買いに行ったあと
「あかりちゃん、進藤ってさー・・・」
「はい?」
門脇があかりに質問をする
「どんな彼氏?」
「どんなって?」
「優しいとか、いろいろ。」
質問をする門脇に
「進藤はものすっごいヤキモチやきですよ」
和谷が横から口をはさむ
「見てればわかるよ」
門脇は苦笑した
「で?どうなの?」
あかりは恥かしそうに下を向いて
「ヒカルとはずっと幼なじみで
いざって言うとき、頼りになって
約束もよくすっぽかすし、すぐわがまま言うし・・・」
あかりはここまで言って、さらに下を向く
その表情は、ライトでよく見えないが、少し赤い顔をしているようだ

「でも、すごく優しいんです」



ヒカルが飲み物を持って帰ってくると
何故か皆がニヤニヤと笑いながら自分を見る
(何だ?)
とも思ったが、とりあえず飲み物が多いので
「買ってきたよ、好きなの取って」
そう言って、ビニールシートの上に缶ジュースを置いた
「あかりはオレンジな?」
ヒカルは、あかりに直接缶を渡した
「ありがと」
心なしか、あかりの顔が少し赤い気がする
「あかり?」
「え?」
「熱でもあるのか?」
そう触れようとするヒカルの手を軽く払いのけ
「何でもないよ!」
あかりは言った
その顔はさらに赤くなったように思うのだが
あえて、言わないことにした
「進藤くんって、いい彼氏なんだねー」
門脇の言葉にヒカルは
はぁ?という顔をしつつ
「ありがと」
そう答えた
(一体何なんだよ?)
帰って来る前、一体どんな話をしていたのか気になるヒカルだったが
誰も何も言わないし、あかりも何でもないと言うし
つっこむとあかりは多分、もっと赤くなるから
気にしないことにした
せっかく花見に来ているのだ
あかりだって楽しそうにしていた
そんなあかりの表情を久しぶりに見れたのだから、崩したくない


「お弁当、食べませんか?」
ようやく落ち着いたらしいあかりが、重箱のふたを開けた
「おおー!」
またも歓声が上がる
「悪いわね、あかりちゃん」
市河がウインクをする
「ありがと」
夕依が続いてお礼を
「いえ!時間あったから・・・」
あかりはそう言って、少し照れた


「ヒカル何食べる?」
ヒカルの方を向き、少しぎこちなく一言
中身はどれもヒカルの好きなものばかり
「どれでも」
「それじゃわかんないよ」
あかりが少しふくれた顔をする
傍から見れば、いちゃついているようにしか見えないのだが
「じゃあ、これと・・・」
ヒカルが指差すものを、一つ一つお皿に取っていく
「皆さんもどうぞ」
あかりは重箱を差し出した
「ありがとー」
そう言いながら、皆が箸を進めた
「おいしい」
みんなにそう言ってもらい、あかりは頬をピンク色に染める
「いい奥さんだな、進藤」
次々にそういわれ、あかりだけでなくヒカルの頬もピンク色に染まる
二人とも否定はしない
(面白い・・・)
二人はみんなのいいおもちゃだ


食事を終え、ふと見上げると、色づいた桜が月夜に照らされ
白く光って見える
「キレイ・・・」
あかりは思わずつぶやいた
あかりの言葉に、皆が桜を見上げる
幻想的に映し出される桜に、思わず時を忘れてしまうかのように
「お前等、桜見に行ってこいよ」
門脇が寝転びながら言う
「せっかくだから歩いて桜、見て来いよ」
「俺達はここで待ってるからさ」
門脇だけじゃなくて、他の人にも言葉をもらい
「じゃあ行くか」
靴を履き、あかりへと手を伸ばした
「ちょっと行ってきますね」
あかりは皆に軽く礼をして、ヒカルの後に続いた
それを見た和谷、塔矢、伊角も、彼女を連れて席を立った
「若いっていいよなぁ」
くっくっと笑いながら

「キレイだねー」
「ああ。」

小さい頃は親も一緒に桜の下を歩いた
今は二人
「手、繋ぐ?」
ヒカルに手を差し出され
「うん」
あかりは頬を染めながらその手をとった

「それにしてもすごい人だな
はぐれるなよ」
ヒカルはあかりを気にしながら人ごみを歩く
人の波から見える桜を見ながら、二人は歩いた
繋いだ手が、少し熱い
手をつなぐだけでなく、その距離も少し縮める

少し歩くと、夜店が見えてきて
りんご飴を見つけ、あかりの目が輝く
「ちょっと待ってて」
ヒカルはそう言って、あかりを近くで待たせ
帰ってきたヒカルの手には飴が握られていた
「はい」
あかりへと手渡される
「ありがと」
小さく微笑んで、受け取った


「寒くない?」
「うん、大丈夫」

交わした言葉はこれだけ
二人で、ただ何も言わず
桜並木の下を歩く
二人でいられる一番落ち着く時間
はぐれないで 離さないで




「あかり、ごめんな」
「何が?」



突然謝るヒカルに、あかりはきょとんと聞き返す
「花見、行きたいって。
結局こんな感じになっちまって」
しょうがなそうにつぶやくヒカルに
握った手をいっそう強く握りしめ
「そんなことない、嬉しい」
あかりは笑う
ヒカルと二人で見に来たかったという願いもあったけど
連れてきてくれたことには変わりはないから
自分の勝手なわがままを、ヒカルは聞いてくれたから
それだけでもう
充分
心からそう思う
「ありがとう」
心からあなたに伝えたい



「一つ聞いていい?」
「え?うん、いいよ」
「花見、行けるって聞いたとき、何であんなに嬉しそうだった?」
あかりは隣にいるヒカルを見た
少しだけ照れているような顔
あかりは何だか嬉しくなって
ヒカルに気づかれないようにそっと笑う

何でって
それは
「どんなカタチでも、ヒカルと行けるなら
何だってあたしは嬉しいんだよ」

あまりの桜の綺麗さに、心まで澄んでいきそうで
いつもは恥かしくて言えない事も、何でも言えてしまいそう


「そっか」
そう照れて笑うヒカルにあかりもつられて笑う
「来年も絶対来ような!」
「うん!」

まだどうなるかわからない約束を交わす
大丈夫、その約束があれば
その笑顔が見たいから
きっと来年もその未来も
キミとこの下を歩きたい







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約2週間くらい、日記にて連載していました。
サクラドロップス後編です。
思ったより長くなってしまったので、前編・後編にわけました。
前編から先に読んでくださいねv
日記から、少しだけ修正してあります。
どのへんが付け足されたのか、気になる方は日記を見てやって下さい。
またもさりげなく宣伝(笑
現在は違う連載をしています。


サクラドロップスはこれで終わりです。
二人にお花見をさせたいという、姫の妄想から出来上がった小説です。
付き合って初めてのお花見。
どうやら、素敵な想い出ができたようで、姫も嬉しいです(^^
門脇さんがいいキャラしてますねー。
二人が揃うと、門脇さんのいいおもちゃです。
何かからかいがいがありそうな二人(笑
ちなみに姫は
アキイチ・スミナセが好きです。
和谷さんにはオリキャラ彼女ですが。
前にも言ったかなー。
和谷さんの彼女さんは、夕依さんと言いまして、
あかりちゃんと同じ高校の先輩だったりします。
囲碁部の。
夕依さんとあかりちゃんのお話が読めるのは、
ホワイトデーのおまけ小説です。
気になる方はどうぞそちらもよろしくです。


こんな無駄に長い小説を読んでくださった方、
どうもありがとうございましたv




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