何をあげたらいいのかなんて
そんなのめんどくさい
だけど笑顔が見たいんだ



不器用な贈り物。


「もうすぐホワイトデーだよな」

そんな和谷の一言からすべてが始まった


「だから?」


それが何だと気にも止めずに俺は答えた


「だからってお前…もらったろ?あかりちゃんからチョコレート!」


和谷はあきれた顔をする


「もらったけど…」

一応はもらった
というか、もらえた
どうせ義理なんだろうけど


「だろ?お返しぐらいしよう!とか思わねぇのか?」


和谷に尋ねられ考えてみる


そりゃあかりからはもらったさ
でもそれは毎年の出来事だったし
それにしても、去年もらえなかったのはさすがにひびいたな
じゃなくて
っていうか
俺があかりにお返し?
そんなの考えたこともねぇよ
あかりだっていつもくれるとき
「お返しはいらないからね、どうせ義理だし」
って
バレンタインは俺たちにとって
特別なイベントなんかじゃない
俺には最近変わってきたけど
きっとあかりにとっては
俺にくれるのは
幼なじみのよしみとか、同情



「義理でもお返しってしなきゃいけねぇの?」

俺が尋ねると
和谷は大きく目と口を開き呆然とした顔になった


「和谷、口!口!!」

俺がつっこみをいれてやると、和谷ははっと我に返り


「義理?あかりちゃんからのチョコが?お前、それ本気?」

我に返ったかと思うと、今度は哀れんだ目で俺をみる

何なんだよ


「だってあかりだって義理って言ってるし、
俺たちにとってバレンタインって、別に意味はないってゆーか…」


「ホントに?」


見透かされているような
和谷には隠したって、どうせばれる


「そりゃ、俺にとっては少し変わってきたけど…」

正直に打ち明けてみる

和谷はうんうんとうなづいたあと言った


「あのな、進藤。そういうのは、義理とか本命とかは関係ないんだ。」


関係ない…?


「ただ、お礼の気持ちをこめて渡すだけでいいんだよ」


「お礼の気持ち…」

無意識に繰り返してた



「そ、気持ち。
誰かにものをあげる時って、結構緊張するよな。
特に大事な人に渡すとき時は。
相手から貰うときだっていっしょだ。
相手はきっと、たくさんの気持ちを抱えてプレゼントするんだよ」
「…たとえば?」
「うーん、そうだな…例えば、おめでとうとか、好きとかさ。
相手の喜ぶ顔がみたい、とかさ。いろいろ」

好き


「お前さっき、義理だって言ったよな?それがほんとだとしても、だ。
どうでもいいようなヤツに、大切な日にチョコあげたりなんかしねぇよ。
誰でもいいからあげるなんて、もうそんな子供な歳でもないだろ?」
「つまり?」
俺はいつのまにか
和谷の話に真剣になってた

「まぁ俺の想像だけど、あかりちゃんもだいぶ決心して渡したんじゃないかな?」


あかりが?



そんなこと考えたこともなかった
だってあかりは
いつも当たり前のようにくれたから
俺たち自身、当たり前だと思ってたから
でも俺たちはもう
子供じゃない
人の好き嫌いを、感情で理解できる

俺があかりからもらえなかったのがひびいたのは…



「お返しって、何でもいいのかな?」




もらうだけじゃなく
俺だってあげなくちゃ
理解したなら
動かなきゃ始まらない
好きだとかそんなことより
俺は、あかりに笑ってほしい
そんな感情でもいいんだろうか



「ああ!ありがとうがつまってればな!」

和谷は親指を突き立て言った

でも、何をあげれば喜ぶかなんて
さっぱりわからない




「何でもいい、か…」

俺は知らずにつぶやいて
ホワイトデーまで真剣に悩むことになる



1週間後
一向に何をあげたらいいのか思い浮かばなくて

いいよな、バレンタインは。
あげるもんが決まってんだから
あかりのほしいものなんてしらねぇよ
聞いたことないし。
そういえば、バレンタインから一回も会ってねぇな
別に電話でもいいけど
「何かほしいものあるか?」
なんて、いかにも「お返しをやる」っていってるみたいで
俺がイヤだ
それにもし受け取ってもらえなかったら・・・
だあああっ
大体、なんで俺がこんなに悩まなきゃいけねぇんだよ
碁以外で、こんなに頭使ったのなんて、学校行ってるとき以来だ


「はぁ〜・・・」


ため息をつくと
不意に後ろから声をかけられた



「進藤?」

声の主は和谷
もとはといえば、こいつが余計なことさえ言わなけりゃ
俺はこんなに悩まなくて良かったんだよ!

ってあげるって決めたのは俺だけど。


「ホワイトデーのお返し、決めたか?」
「決まってねぇよ」

嫌味っぽく和谷をにらみつけた

「そんなに深く考えるなよ
何でもいいんだからさ」

和谷は苦笑いしながら言った
その「何でもいい」ってのが一番難しいんだよな

「何かいいものないかぁ」

そうつぶやいた瞬間だった

「あたしにいい考えがあるわ」

突然聞こえた声に、俺と和谷は驚き振り向いた

「奈瀬!」

声がハモる

いきなり現れるなよ
心臓に悪い

「お前って、現れるときいつも突然だよな」

和谷がため息をつきながら奈瀬につっこみを入れる


「で?いい考えってなんだよ?」

俺もそれが聞きたい


「相手は手作りでくれたんでしょ?
だったらこっちも手作りで返せばいいのよ!」

(それはいい案だ)

と言いたいところだけど

「俺、料理なんてしたことないんだけど」

和谷と二人、顔を見合わせ言った

「だから、よ!
普段しないような人からの手作りの贈り物
これほど心動かされるものはないわ!
ね、伊角くん!」

奈瀬は後ろを振り向き言った
いたんだ、井角さん(ヒド

「そうだな…」
答える伊角さんの顔は、少し引きつり気味で
笑顔もどこか青ざめてみえる
そういえば、伊角さんは奈瀬と付き合ってんだっけ
奈瀬にそんなこと言われたら
「手作りの贈り物」を贈るしかないんだよな、伊角さん


「ホワイトデーのお返しは高価なものなんていらないの
お金で愛を返すなんて外道よ
お金で愛情を買おうなんて、本当の愛じゃないわ!」

何か演説に熱が入っちゃてるよ
苦労するよな、伊角さん


「奈瀬、もうその辺にしとけよ」

和谷がとめる

「そんなわけで、土曜日あたしの家に来なさい」
『は!?』

奈瀬のまたも突然の提案に、俺と和谷の声が一緒になる
これで何回目だろう

「なんでいきなりそうなるんだよ!」

そうだそうだ

和谷の答えに、俺は心の中でうなづく

「あんたたち、料理したことないんでしょ?
あたしが教えてあげるわよ」

そんなの結構です、奈瀬さん

おれたちの心の声も届かす

「決まりね!」

奈瀬は勝手に決めてしまった
ほんとに、伊角さんに同情するよ


そんなわけで、おれたちは土曜日
奈瀬の家に行くことになってしまった



土曜日
奈瀬の家に行くとしっかり準備がしてあって


「簡単に作れるクッキーにしたわ」

なんて笑顔で奈瀬が出迎えた
まさか、自分がクッキーを作る日が来ようとは
そういや、あかりからもらったことをあったよな

奈瀬はやっぱり女なだけあって、かなりうまい
厳しく教えられ、ようやく完成したものは
少し焦げていて

「こんなんでいいのかよ…」
思わずため息とともに呟きがでる

「いいのよ、これで」

奈瀬はにっこり笑って答えた

ほんとかよ
焦げてるし

「手作りってよくわかるわ
きっと彼女、喜ぶわよ」

奈瀬はガッツポーズをしながら言った

「彼女じゃねぇって」

そう、まだ彼女じゃない
「幼なじみ」という甘い世界から抜けていないから
これだって、受け取ってもらえるという保証はどこにもない


「いい?進藤
お返しっていうのは、金額の問題じゃないのよ
そりゃ、高いものもらえたら嬉しいし、愛があるのもわかる
でもね、どんなものだって、気持ちがこもった手作りにはかなわないわ
受け取ってもらえるわよ、絶対」

奈瀬そういってもらえて、なんだか少し自信が持てた
ダメモトの恋かもしれない

俺は、あかりが笑っていてくれさえすれば
隣にいてくれれば、それだけで十分なんだ
ただ、気持ちだけは伝えたいから

俺は作ったクッキーを、教えてもらいながらラッピングした
形もきれいじゃないし、中身だっておいしくないかもしれないけど
気持ちだけはきっとつまってる
伝わるかな
だめでもいい
知ってほしい

「ありがとな」
「頑張ってね!」
俺はそういって、奈瀬のうちを後にした

それを、あかりが見ていたのを知らずに



ホワイトデー当日
ちょうどよく日曜日
手合いもない
俺は電話であかりを呼び出した

『あかり?今からちょっと外出れない?』
『いいけど』

あかりからOKをもらい、うちを出た
約束の時間がくるにつれて俺の心音は早くなっていく
あかりもこんなだったのかな
そんなわけないか、あかりにとって俺は幼なじみなんだから

1ヶ月前、あかりからもらったときと同じ場所を選んだ
あかりは…
まだいない

「ふぅ」

誰かに
好きな人に何かを伝えるときって、こんなにも緊張するものなんだな
知らなかった
初めてだ
手合い以外で、こんなに胸が高鳴るのは

どれくらい時間が経ったのだろう
待っている時間が、ものすごく長く感じた

向こうから、あかりが走ってくるのが見えた
それだけで、心臓はピークになりそうなくらい早くなる


「ごめんね、遅くなって」

あかりは少し息を切らしている

「いいよ、そんなに待ってないから」

なんか恋人同士の会話みたいなんですけど
そんなこと気にしていられない

「ヒカル今日、手合いは?」

落ち着いたあかりが、俺に話かけた

「今日は、休みなんだ」
俺が答えると
「ふーん…」
と小さくうなづいて

「とりあえず、座らない?」

ベンチを指差す

俺とあかりは、その方向に向かって歩き出した

ベンチに腰掛けて
(落ち着け、落ち着け)
と心で唱えて気持ちを落ち着かせる



「ふぅ」
と、あかりに気づかれないように小さく息を吐いて
「あかり」
と言いかけた瞬間
「昨日の、女の人
奈瀬さん・・・だよね?」

あかりから突然の質問に
俺は呼びかけたまま少し考える


「昨日?」
なんであかりが知ってるんだ?
俺は逆に聞き返す
あかりは下を向いたまま
「昨日、見たの
ヒカルが奈瀬さんの家から出てくの」

あかりの返事に、俺は昨日のことを思い出す

「あれは・・・」

弁解するわけじゃないけど
聞かれたことには答えようと口を開いた

「奈瀬さんって、ヒカルの彼女なんでしょ?」
「は?」

あかりの言葉に、俺は思わず絶句する

「良かったね、あんな可愛い彼女さんができて
何で教えてくれなかったの?」


あかりは残酷な笑顔を俺に向ける
違うのに


「あかり、俺、好きな人がいるんだ
奈瀬じゃなくて
それに奈瀬は、伊角さんって人と付き合ってるんだよ」



まるで、言い訳してるみたいでかっこ悪いんだけど
このままじゃ、伝えるどころか渡すことさえできない


「ふーん」

あかりは小さくつぶやいて

「じゃあヒカルの好きな人ってだれ?」

唐突に聞かれると困るんですけど

「誰って言われても・・・」

口ごもるしかできない
でも言うしかない

「あかり」

俺はまっすぐにあかりを見た
あかりもまっすぐに俺を見据える


「今日、何の日か知ってる?」

一応確認

「3月14日?」

だよな
お返しなんてあげたことないもんな
どんな日かなんて、いちいち覚えてないよな

「今日、ホワイトデーなんだ」
自分で言うのってすごくかっこ悪い

あかりは状況が飲み込めないような顔をしてるし

こんな雰囲気で渡すのもどうかと思うんだけど


「はい」


ポケットに忍ばせておいたものをあかりに渡す


「え?」

あかりは反射的に俺からの贈り物を受け取って
俺を見た
それだけで、顔が熱くなる


「今日、ホワイトデー
俺、一回もお返しなんてあげたことなかったけど」

恥かしい
こんなので
「好きだ」
なんてとてもじゃないけど言えない
渡すのが精一杯だ


あかりがどんな反応してるのか気になって見てみると
なみだ目になって俺をにらんでた

「あかり?」

喜ばせることはしても、泣かせることはしてないぞ

どうしていいかわからずに
ただなぐさめるしかできなくて


俺は戸惑うばかり
あかりの涙が止まるまで
俺はそっとあかりを抱きしめた
言葉の代わりに


ようやく泣き止んだあかりは

「ありがと、ヒカル」

見たことないような顔で笑ってくれた


ああ
これが見たかったんだ
やっぱり笑ってるあかりが好きだ
俺、不器用だけど
あかりが好きだってはっきりいえる
ただ恥かしいから、もう少し待っててほしい
ちゃんと伝えられる日は
きっとそんなに遠くない









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遅くなりましたが、ひかりホワイトデーです。
またもラブラブです。
和谷さんと奈瀬さんは
二人の恋のキューピットさんです(笑
これからも出番を用意してますので、
よろしくです、お二人さんv


この設定では、伊角×奈瀬です。
すみません、好きなんです。
和谷さんには、幼なじみの彼女さんがいます。
可愛いです。
和谷さん、彼女バカです(笑
進藤さんと競えるほど、彼女が一番です。
和谷さんの彼女さんは、そのうち別のネタで出します。
名前だけですが。

ホワイトデーは進藤さん語り
バレンタインデーはあかりちゃん語りだったので
お互いの視点で、おまけとして描きたいと思ってます
お話は一緒ですので、あくまでおまけですけど。

こんなのですが、いちおフリーにします。
お持ち帰りしてくださる方、いましたらどうぞv
サイトに載せたいという奇特なお方(いるのか)
いましたら、ご一報下さいませv

最後まで読んでくださったかた
どうもありがとございましたv






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