惚れた弱みだなんて情けないってバカにしてた













ＣＵＴＥ













「何よ、もう！
ヒカルのバカ！」




朝っぱらから
あかりとケンカ

原因は
俺が寝坊して、朝飯を食わなかったこと



仕方ないだろ？
昨日遅くまで飲んでて
胃が受け付けなかったんだから
早く起きて作ってくれたことは嬉しいけど
バカはないだろ、バカは






手合いがあるっていうのに
腹の虫がおさまらない


















「おっす！進藤！
…って、機嫌悪くね？」



俺はすぐ顔に出るらしく
和谷は顔を見るなり言い当てた








「あかりちゃんとケンカでもしたんだろ？」





和谷の言葉に
俺は横目でにらみ付ける





「怖ぇー…図星かよー」




何でわかるかな






「別に」



言い当てられてばっかっていうのも悔しいから
ばれてるんだろうけど
言い訳する














「どうせ、朝飯食わなかったとかいう程度のケンカなんだろ？」
「何でわかるんだよ！」



あまりにうまく言い当てられて
思わず吐いちまった
そこまでわかるか
フツー









「何でって…うちがそうだから」


もっともな答えをありがとう
和谷も一緒に飲んでたんだ
状況は同じか



そういや和谷は婚約してんだっけ








「お前んとこはまだいいよ。
俺なんか、夜から口聞いてもらえなかったんだぜ？」





そりゃこたえるよな












「だから今日は、土産でも買って早く帰んねぇと」






和谷は苦笑いでそう言った

そんなの
女に振り回されてカッコわりぃ



でも大切に思ってるのわかるんだ










あかりもストレートなのがいいのかな
俺、素直に言うの苦手だし
それはあかりも
わかってくれてるよな















「なぁ。女って言葉がないと安心できねぇのかな」
「は？」
「いや、えっとあの…変なイミじゃなくて
お前、彼女にはっきり好きだって、言う？」
「・・・」
「だからその…参考までに」






俺、何聞いてんだよ！かっこわりー
















「俺はあんま言わねぇよ」
「何で？」
「お前…自分も言えねぇくせに、そういうこと言う？」
「ごめん」




俺が謝ると、和谷は小さくため息をついていった




「俺、女じゃねぇもん、そんなのわかんねぇよ」






そりゃそうだ












「確かに、言葉って必要だよな」


和谷は、うんうんと頷きながら言った
自分にも言い聞かせているみたいに






「でもさ、そんなに簡単に言える言葉って、嘘っぽくね？
だから、特別な時しか俺は言わない」







特別な時って？



気になったけど、そこまでは聞けなかった







言葉か・・・
そういえば俺。
あかりにちゃんと好きだってこと言ったっけ？
付き合うときに・・・言ったっけな。
確かあの時は・・・言った

それくらいしか言ってない


俺、言葉じゃなんもあかりに伝えてなかったんだ





あらためてそう実感する











「まぁ、そんなに悩むことでもないと思うけど」
「そうかな」
「それより今日の手合いだろ」






確かに手合いも大事だけど

あかりも気になる





手合いはもちろん勝つつもり


よし、今日はまっすぐ帰ろう

誘いを全て断って
俺は早々と棋院を後にした






ふとショーウィンドウに目をやると
そこにはあかりの好きそうなケーキが並んでいた








（機嫌直しのためじゃねぇぞ）







そう言い聞かせて、俺は店に入った






女だらけで、かなり居心地悪かったんだけど
何とか買うだけ買って、俺はうちへと急いだ



















「ただいまー」
（まだ怒ってんのかなー･･･）






憂鬱になる気持ちを抑えて、俺は玄関を開けた










「おかえりー！」




向こうからパタパタと足音を立てながら
あかりが出迎えてくれる
何か拍子抜けするくらい明るい声で








「今日は早かったね」




なんて、笑顔で話しかける





さっきまで気にしてた俺が
何だかバカらしく思えてきて













「ヒカル？」
「何？」



ちょっと不機嫌になる






「お風呂沸いてるよ？
ご飯先にする？」






俺は風呂を先に選んだ


あかり、もう怒ってないのかな？
俺が気にしすぎてた？



や、でも。
あかりって俺が聞かないと何にも言わないし
ほんとは怒ってるけど、言わないだけとか･･･




でもあの態度は、怒ってる時の態度じゃないよな
口聞いてくれないもんな、怒ってると。












あー･･･
俺が考えすぎなのかなー

情けない

あかりのことになると俺
いつもいっぱいいっぱいだ














風呂に入ってさっぱりするはずが
何か考えすぎてのぼせたかも
















ふらふらする頭でキッチンに行くと
あかりは夕食を作ってて









「もうちょっと待っててね」




笑顔を俺に向ける






やっぱ怒ってないよな、この笑顔は
せっかくおみやげ買ってきたのに

ま、いっか。
別に機嫌直しで買ったわけじゃないし

















「あかり、今日土産買ってきたから
あとで食べような」
「お土産？なになに？」
「あかりの好きなもの」
「ケーキ？」




なんでわかるかな




「何でわかった？」
「え？だってヒカルすぐ顔にでるもん」
「･･･」
「あ、怒った？」












あかりにからかわれる日が来るなんて
考えたこともなかったのに






「もういいや･･･メシ」
「はいはい」





あかりが作った飯を前に座ると、あかりが真正面に来て座る 食卓の定位置だ








<「今日の手合い、どうだったの？」
「勝ったよ」
「すごーい！四連勝だね！」





まるで自分のことのように喜んでくれる
そんなあかりは、すごく可愛い
こんな可愛い子が俺といてくれるなんて
俺って幸せだ






幼なじみじゃなかったら、俺もあかりも
お互いの認識なんてなしにいたんだろうな











例えそうだったとしても
俺はきっとあかりのことを好きになったんだろうけど
何て

















「あたし、お風呂入ってくるね」





食べ終わった後片付けを終えて
あかりは席をはずした








怒ってない
俺の中に確信が起こる
いつもどおりだもん
絶対怒ってない
あかり、もの分かりいいからな
俺のことわかってくれたんだろう




何て、自分の都合のいいように考えてしまう
俺の悪いクセ






ケーキ買ってきたんだ
機嫌直しの言い訳だってできる
あかりのことは俺が一番よく知ってるから













「いいお湯だったー」





髪の毛を洗ったんだろう
微妙に濡れた髪で、あかりが風呂から出てきた

上気した頬が、いつにもまして、あかりの白さを映し出す
そんなあかりを見てたら、何だかドキドキしてきた




やっぱり俺、いっぱいだ
















おかしくなる前に、さっさと寝てしまおうと





「ケーキ、食おうぜ！」


そう言って、冷蔵庫から箱を取り出す








「じゃあ紅茶入れるね」






あかりはキッチンへと入っていった










「あかり、好きなのとれよ」




箱をあかりの前に出す






「ありがと」







そう言って、これでもかというほどのケーキを皿にとった
あかりはにこりと笑って一言














「ケーキ、昨日のおわびのつもりでしょ？」




見透かされてる？







「顔に出てるよ」












そういいながら、ケーキをほおばり
顔は極上の笑みを浮かべる
俺にとっては酷な笑顔だ

あかりに見透かされるなんて、何か悔しくて












「クリームついてる」

そう言って、口元についてるクリームを
舌でなめとってやった





あかりは目を見開き
続いて真っ赤になる

思ったとおりの反応だ

やっぱり、俺の方が一枚上手だな












と思ったら
急に目の前にあかりの顔が
唇には、ケーキの甘い香りが残る






「･･･」
「してやったり？」









意地悪な笑みを浮かべて


あかりはある意味
誰よりも最強なのかもしれない
少なくとも、俺にとっては何よりの弱み
ペースを惑わされる
やっぱり惚れてるってことなのかな


かっこ悪いけど
何だか情けない気もするけど
相手に対して弱くなるのは
それだけスキってこと











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あははーうふふー
小悪魔あかりちゃんです。
そして新婚さんです。
進藤さん、あかりちゃんにはめっぽう弱いですね
相手のことが好きなだけ、振り回され狂わされる
それはきっと何よりも幸せなことだと思うですー、姫は。


ＣＵＴＥというのは、進藤さんをからかうあかりちゃんと
あかりちゃんにからかわれる進藤さんの両方を指していますです。
どっちも可愛いってことで（笑



今回もお砂糖入りですー。
だいぶ前に書いたものの上に、恥ずかしいものですが（あせ；）
最後まで読んでくださった方、どうもありがとうございましたｖ