これで最後なんて
そんなの






















君に会えてよかった





















2月の終わり


あたしたちはもうすぐ卒業する







あと二週間もすれば、みんな別々の道を歩いていく














あたしも、新たな進路に向けて、一歩一歩歩いてる









卒業式が近付いてくるのを思うたび
まだ

もうちょっとでいいから
このままでいたいって思う


























あたしは理科室にいた




二年前の卒業式



筒井さんもここにいた






何でいたのか
あの頃はわからなかったけど

今なら分かる気がした











帰りたい場所なんだ





ここは

























何にも知らなくて
ただヒカルについてここにいた







ヒカルがやめたら
あたしもやめるつもりだった




そんなに執着はなかったし



ヒカルもきまぐれだと思ってたから
















だけど

ヒカルがやめても
あたしはまだここにいた





今ではそれだけが


あたしとヒカルをつなぐもの


























理科室をぐるりと回ってみる







ああ
ここで打ったんだなって









一つの教室が
あたしにとっては一つの家だった




楽しくて、みんながいて








あの頃はヒカルもいて


























あたしは、用具棚からノートを取り出した





みんなの分を一つづつチェックする




こんなにたくさん打ったんだって
思えるくらい


ノートは勝敗で埋まってた








ここに
ヒカルのノートもあるはずだったのにな
















そんなこと言ったって
今更言ったって戻れない


























あの時

前へ進んで行くヒカルを止めることはできなかった









あたしはあたしで頑張っていこうって思った


























「そうだ!」







思い立ったように、あたしは声に出してた




碁石洗おう!
筒井さんみたいに





だってここにあるものは全部





大切につないでいかなくちゃ



























あたしは
用具棚から今度は碁笥を取り出した







古い



もうずっと使いこんである





あたしだけじゃなくて







触れた人すべての思いがつまってる



















ちょっとだけ打ってみようかな


























打とうとした時








聞きたかった声がした


久しぶり


























「あかりじゃん」
「ヒカル」











驚いて、思わずその手を止めてしまった




























「何でここに・・・」
「いや、別に」
「・・・」
「・・・」













あたしは碁石を手にしたまま固まってて





ヒカルは入り口でどうしていいのかわからないのか
その場で固まってる



























「入れば?」












あたしの部屋じゃないけど

















「あ、うん」






ヒカルは遠慮がちに足を踏み入れる















「どうしたの?」
「・・・だってお前、来るなって言ったじゃん」
「え?」
「ほら、三谷のことがあったとき。俺にもう来るなって言ったろ?」
「あ。」
「あ。って・・・」










思い出した





もう関係ないヒカルとは違って
三谷くんはこれからも囲碁部に必要な人だから



あたしがヒカルをここから引き離したんだ


























「じゃあ、何で来たの?」
「ああ。卒業式まで、ゆっくり学校に来れる日
今日が最後かもしれないからさ」











あたしは2週間あっても、ヒカルには必要のない時間なんだ


























「碁石、洗いにきたんだ」









ヒカルも考えること一緒?





























「そっか」









うん




あたしにとっても、ヒカルにとっても
ここは始まりの場所だもんね







誰よりもきっと、強い思いがあるから


























「ね、じゃあさ」
「ん?」
「一局打ってほしいな」











たくさん打ってもらってたあのころ






少しずつ強くなってくヒカル






だんだん偉そうになって、あたしに教えてくれてたよね







いつか
教えてもらえなくなる日が


遠からず来るはず





だから今だけ


























「忙しい・・・かな?」
「や。大丈夫だけど」
「ほんと?いい?」
「ああ」
「やった!」















当たり前のようにここで打ってた毎日





ここにくればヒカルに会えた










今は違うけど

やっぱりここは、思い出の場所




























「ヒカルに打ってもらうの、久しぶりだね」
「そうかぁ」
「そうだよ!」













部活引退してから、一度も碁石に触れてない










その石の感覚を確かめて


























「置石置いていい?」
「置かないで勝つ気かよ」
「ヒカルに勝てるなんて思ってないよ!
どれだけ強くなったか見てもらおうと思って」
「ちったぁ強くなったのか?」
「多分・・・最近打ってないからわからないけど」
「まぁ、そう簡単に腕は落ちないけどな
あかりの場合、それ以上落ちたら困るだろ?」
「・・・ケンカ売ってるの?」
「売ってないって」













ヒカル
全然変わってない





いっつもからかってばっかり



























「ほら、打つぞ」
「うん。お願いします」
「お願いします」








ゆっくりとゲームを進めていく


























「うん、強くなったじゃん」
「ほんと?」






初めて聞いた褒め言葉






それだけで、ここに来た甲斐があるよ






思い出できちゃった




























「ありがとうございました」








結果はあたしの負けだったけど

勝てるつもりもなかったけど







久しぶりに打てたことも

ヒカルとだったからもっと幸せな時間になった





























「そういえばさ、筒井さんも卒業式前にここに来てたよな」
「え?あ、うん」
「筒井さんも、こんな気持ちだったのかな」









今のあたしたち、同じ気持ち?




























「碁石洗うか」
「そうだね・・・」










もともとそのつもりで来たんだし













碁笥を洗い台にもって行って




久しぶりにヒカルと並んだ









あたしより背の高くなったヒカルに


ちょっとだけどきどきしたのは
あたしだけの秘密

























「俺がここを出てから2年・・・か」
「・・・うん」
「何か、いろいろあったようななかったような」
「あったんじゃない?」
「もう、卒業なんだよな」
「うん」














涙が出そうになった








これからは、こうやって偶然に会うことも少なくなるんだね





覚悟してたけど、やっぱりちょっと寂しいな




























「ヒカルはもう、学校行かないんだよね」
「ああ。これで最後」
「プロ、頑張ってね」
「うん」
「ずっと応援してるからね」
そりゃ頑張るけど・・・
急にどうしたんだ?」
「・・・何でもない」













変わっていくんだもん



あたしもヒカルも










だけど、少しでもあたしとの時間を残してくれるんだったら


今、この時間を







あたしも残すから

ヒカルとの時間













忘れないでいてくれさえすれば
それで充分なんだ






来てくれてありがとう














離れ離れになってしまっても




もう二度と会えなくなっても









ヒカルに会えてよかった











心からそう思うこと

伝えられないけど







閉じ込めておくね











卒業式を迎えたら




『おめでとう』

って




そっと伝えたい












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恋人未満ひかり。卒業式前の一コマでした。
だんだん話が変わってしまって、急遽タイトル変更(またか←笑)
卒業式前の話とか、考えてるネタは1つじゃなかったりします。
もちろん、例のあのシーンの話も。
卒業式前は寂しくなるものです。
今までそばにいた人がいなくなる
それだけで、「卒業したくない」と思うのには充分な理由ではないでしょうか。
恋人未満はやはり切なくなりますね。ひかりというよりもヒカル←あかりになってしまいました。
ヒカル→あかりも良いですが。そうすると切な系よりも、進藤さんお年頃でどたばたになりそうです(笑)

このあと一緒に帰ったと思われます。続き描けたら描きたいです。






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