限界のタイムリミット
















天然彼女

















「あー」




俺はベッドに横たわりながら
ため息とも言えない言葉を吐く



夏も終わりに近付こうとしているのに
この暑さは何なんだよ





久し振りの休みだから、ゆっくり寝てやろうと思ってた


なのに
こういう時に限って、早く目が覚めてしまう





目が覚めたはいいけど
まだ起きたくない





俺は枕元に置いてあるエアコンのリモコンを
手探りで探す


もう動くのも暑い





ようやく見つけてスイッチを押す


しばらくすると、気持ちのいい風が流れてきて



俺の睡眠は約束された






それからどのくらい寝ていたのだろう






話し声が聞こえてきた

どこかで
よく聞く声?






「ヒカル!いつまで寝てるの?」






母さん?
起こしに来たのか






「エアコン付けて寝てるの?
風邪引いちゃうじゃない」






風がこなくなる


少し暑苦しさを感じて
少しだけ目をあけてみる

ぼーっとした視界に広がったのは






「あかり…?」
「おはよ、ヒカル!やっと起きた」






夢でも見てんのか?
何であかりがここに



昨日電話したからか

そりゃ会いたいとは言ったけど
夢にまで見るとは






「ヒカル?まだ寝てる?」





あかりの手がひらひらと
俺の視界をさえぎる




その手をつかまえてみたら


つかめた



夢じゃない

夢がこんなにはっきり
感覚をつかめるはずがない






「あかり…っ!?」
「起きた?」






布団を脱ぎ捨て
俺は飛び起きた





夢じゃないなら
何であかりがここに?






「いつまで寝るつもりだったのー?」






そんなうらめしそうに見るあかりに
ここにいるんだという実感が強くなっていく







「何であかりがいるんだよ?」
「何でって…おばさんに頼まれたから」





そうじゃなくて






「何でうちにいるんだよ」
「おすそわけ。持ってきたの。梨だよ
ヒカル、好きでしょ?」
「好きだけど」
「おばさんが、ヒカルまだ寝てるって教えてくれて」






それで






「起こしにきたの」





楽しそうに笑うなよ





「ほら、早く起きてきて」
「んー…」
「起きるの!」






横になる俺の腕を引っ張るあかり


頼むから寝かせて






「せっかく会いに来たのに、つまんないよ…」






その顔反則







「わかった。起きるよ…」
「ほんと?」






ったく、こいつ
ほんとずるいよな




そんな顔されたら
どんな願いでも聞いてしまいそうなくらい
あかりは可愛い



みんなにいつもうらやましがられるんだ


もったいないとか言われたり、思ったりしないこともないけど
あかりは俺のもの
















「すぐ起きるから、下で待ってろよ」
「絶対だよ?」





指をぴんと立てて、あかりは俺の部屋から出て行った













「はぁ」














深くため息














ゆっくりと身体を起こし、俺は下へと降りて行った












下では母さんとあかりが、楽しそうに世間話に花を咲かせていた















「結構大変なのねー」
「そうでもないですよ。」






高校のことでも話てんのかな












「はよ・・・」
「ヒカル、遅かったじゃない」
「たまの休みくらい寝かせてよ」
「不規則な生活してるんだから」
「職業上」
「ご飯は?」
「んー、いる」









俺が返事をすると、お母さんは立ち上がってキッチンへ入ってった












「ヒカル、おはよ」
「はよ」
「突然部屋に押しかけてごめんね」
「いいよ、別に」
「よかった。ちょっと機嫌悪かったみたいだったから」
「寝起きはいつもあんなのだって」
「そうなんだ」






くすくす笑いながら

『寝起きはいつも』なんて
ほんとはそんなの嘘っぱちだけど








あかりは俺の顔を見て

にこって笑ったと思ったら、頬にキスをしてきた











不意打ち








「なっ何すんだよ!?」
「何って。おはようのキス」
「何でそんなことするんだよ」
「んー。したくなったから」







こいつ
ほんと天然




いきなりキスするやつがいるかよ

しかも隣は母さんがいるんだぜ?



入ってこなかったから良かったけど












天然相手って、ほんとに疲れると思うとき


ある












「簡単なものでいいでしょ?」
「あ、うん」








母さんがおぼんにご飯を乗せて持ってきた












「ほら、早く食べちゃってね」
「うん」





俺はイスについて、ご飯を食べ始めた
















「ねぇ、何であかりがいるの?」
「お土産持ってきてくれたのよ」
「感謝してよー?」






そういや、梨持ってきたとか言ってたっけ












「さんきゅうな」
「ううん。こないだうちももらったから、それのお返し」
「ヒカル、あかりちゃん、高校でも囲碁部なんですって」
「知ってるよ」
「そういえば、付き合ってるんだったわね、あなたたち」






分かってるくせに
あかりに俺を起こさせるなんて
母さん何考えてんだよ










「やっぱりあかりちゃんに起こしてもらうと効果的ね」
「なかなか起きてくれなかったですよ」
「ヒカル、寝起き悪いから」
「みたいですね」






好き放題いいやがって
本人、目の前にいるんだぜ?













「ごちそうさま!」






俺は乱暴に箸を置いて、さっさと部屋に駆け上がる













「あかりちゃんも、ヒカルの部屋に言っていいわよ」
「でも・・・」
「そのつもりで来たんでしょ?」
「別にあたし・・・っ」
「いいからいいから」
「・・・はい///」











扉を閉めた後、すぐにノックが聞こえて







「開いてる」





返事をすると、あかりがひょっこりと顔を出した










「入っていい?」
「さっきは勝手に入ってきたくせに」
「怒ってないって言ったじゃん・・・」
「怒ってねぇよ」







悔しいから、ちょっと八つ当たりしてみただけだよ

情けないけどな












「入れば?」
「・・・うんっ!」







嬉しそうな顔をして、あかりは俺の部屋に入ってきた














「今日はお休みなんだね」
「明日から大手合いだけど」
「そうなんだー。じゃあ、今日来てよかった」
「何で?」
「明日だったら会えなかったもん」






だからさ

勘弁してください












「何だかヒカルに会えるような気がしたの」
「へー」







こんな曖昧な返事を返す余裕しかなかった




余裕?




そんなのないって













「一局打つか?」
「え?いいの?」
「あかりがいいなら」
「打つ!打ちたい!」










あかりが俺の前に座る






いつも隣にいるせいか、前に座られるのは変な感じ













「置石置いていい?」
「好きなだけどうぞ」
「・・・9子でいい」
「そ?」











俺にだって反撃させろよ















「お願いします」






ぺこりと頭を下げて





あかりと打つの、久しぶりだな










相変わらずへなちょこな手は変わってないけど














「ヒカル、この部屋暑くない?」
「そうか?」









気にならなかったけど

暑さも感じないくらいいっぱいいっぱいなのか、俺













「あかりが切ったからだろ」
「エアコンは身体に良くないんだよ?」
「世話焼きのおばさんかよ」
「おばさんってひどくない?」
「ごめん、ごめん」
「もう!」







からかうなら、俺の方が一枚上手












「脱いでもいいかな?」
「へ?」







『脱ぐ』って何を?

何を脱ぐんだよ








俺の思考がストップする

別に変なこと考えたわけじゃない

って言ったら嘘になる?








少しだけ期待して

だけど少しの理性も働いて















「暑いなら脱げば?」







精一杯、平静を装って





あかりの天然って、ここまでかよ
























「ありがと」










あかりはそう言って、着ていた上着を脱いだ



脱ぐって、それのことね




わかっていたけど



少しでも期待してしまった自分に、罪悪感を感じる





何考えてたんだ、俺は













「続きね」







脱いだ上着を丁寧にたたんで




あかりはまた続きを打ち始めた








ふと目をやると

ぎりぎりのラインが見える




俺の思考は完全にストップし
どこに打てばいいのか
どこに打ったのかさえわからない










男の部屋に来るのに、何でそんな格好してんだよ


少しは俺の気持ちも察してほしい




この時ほど、俺が男だってことを悔やんだことはなかった







ミニスカートなのは気づいてたけど
それくらいなら我慢できたけど




上はノースリーブかよ




ぎりぎりだってば










考えるしぐさをするあかり






もうダメだ









集中できない















あかりが最後の一手を打って





「負けました」







俺は初めてあかりに負けを認めた
















「初めてヒカルに勝った・・・!」
「オメデトウ」














何も考えられない









あかりに負けたことを悔しいと思える余裕もない















「あたし、そろそろ帰るね」










一局打ったし、話も出来たし

気がすんだのか?








何でもいいから、今は一人になりたい気分













「せっかくのお休みなのに、ごめんねヒカル」
「別に」
「じゃあ、また電話するね」
「あかり」








扉に手をかけるあかりを呼び止める














「何?」
「今度俺の部屋に入るときは、ジーパンはいてこい」
「何で?」
「何でも」
「どうして?」
「どうしても!」
「・・・わかった」











あの天然は治らない

俺が気をつければ、防ぐことはできる





俺だって男なんだ

人並みの欲求くらいある・・・し












あかりは少し怪訝な顔をして下に下りていった








一人になった俺は、今までできっと一番深いであろうため息をついた








天然な彼女を持つと、彼氏は苦労する
















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あかりちゃん、天然でお誘い(笑)進藤さんぎりぎりですね。
チャットでお話していた、『天然で誘うあかりちゃんネタ』その1です。
もう一個あったりします。それはRさんが描いてくださった絵を元に描きたいと思ってますー!

それにしても。進藤さんよく頑張りました。もうちょっとで危なかったですけど。
ヘタレすぎですね、めずらしく。
オトコノコの部屋に、そんな格好でいったら危ないということを、あかりちゃんはわかってないのです。
むしろ『ヒカルだから大丈夫v』とか思ってたりします。進藤さんかわいそう(ほろり)
いつか報われる日が来るはずです!頑張れー!













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