あなたとなら怖くない
一緒にいたい









門限やぶり










「あかり、今日何時まで?」
「7時まで…」



あたしたちのデートは
いつも、この会話から始まる







うちには門限がある

大体早くて6時
遅くて8時


夏は8時まで大丈夫



早く帰らなくちゃいけないから
約束の時間が早い




ヒカルは忙しいから
もっと遅い時間にしてあげたいんだけど









「ありがと、送ってくれて」
「ああ、別にいいよ。近いんだし」



ほんとはそんな理由じゃないって
あたし知ってる


ふだん会えないから
会えた時間を大切にしたいのは
あたしも同じ






「今度はいつ会える?」



ほんとは
いつも会いたいけど
それはあたしのわがまま





「来週会えるよ」


ヒカルからの嬉しい返事

最近、日曜日には必ず会ってくれる






「無理…してない?」


碁の勉強の時間を削ってまで、会ってほしいとは思わない

あたしの心はわがまま


「無理なんかしてねぇよ。」


あれ?
ちょっと怒ってる?

その言葉のあとに、ふっと笑って


「俺があかりといたいから、会いにくるんだ」



嬉しいこと言ってくれた
それだけであたしの心は満たされる



「うん」



あたしも、ヒカルに会えるだけで嬉しいの

それ以上は望まない
だから、もっと一緒にいたいよ

そう伝える強さが持てたら




「じゃあ、またな」
「うん。またね」


別れ際にキスを残して
次に会うまでの約束を



寂しくならないためのおまじないでもあったりする
あたしには







ヒカルが見えなくなるまで、その背中を見送って

あたしは家に入った








「ただいまー」
「おかえり」


そのまま部屋へとかけ上がる
ヒカルとデートなのは知ってるし
うるさくは言わない








さっき別れたばっかりなのに
またすぐに会いたくなる
おまじないも効かないくらいに
声が聞けないと寂しくて
会えないと切なくて

だけどわがまま言いたくなくて
無理もしてほしくなくて


ヒカルのことばっかり考えちゃうあたしは
完全に恋する乙女
恋をすると変わるって言うけど
あたしは何か変わったかな?






「ヒカル…」


想いは募って名前を呼ぶ











「あかり?」




部屋をノックする音が聞こえた


この声はお姉ちゃん







「あいてるよー」


中から返事を返すと
お姉ちゃんがひょっこりと顔をのぞかせた




「おかえりー」
「うん。ただいま」



お姉ちゃんは顔だけのぞかせて







「入らないの?」



思わず突っ込んじゃった



「あ、うん」



あははと笑いながら、お姉ちゃんが部屋に入ってきた



「どうかしたの?」


お姉ちゃんがあたしの部屋に来るなんて
めずらしい



姉妹に向かってそんな質問もおかしいんだけど
思わず



お姉ちゃんは黙って
あたしも黙って


先に口を開いたのはお姉ちゃん




「見ちゃった…」
「何を?」
「…キス…」





お姉ちゃんの問題発言に
あたしは顔が赤くなるのがわかった



何で見られてるのー!?



「わざとじゃないの!わざとじゃ…」


別に恥ずかしいだけで
腹を立てるようなことじゃないんだけど




「電話しながら外見てたら、あかりが帰って来るのが見えて…なりゆきで…」





どうしよう
すごく恥ずかしい

あたしは下を向いてしまった





「ごめんね?」


申し訳なさそうに謝るお姉ちゃんに
恥ずかしさのあまり顔が上げられないから、黙ってうなづいた





お姉ちゃんはほっとしたようで


「安心して!言わないから」



そうしてください




用事はそれだけなのかな?

ちらっとお姉ちゃんを見ると
にこっと笑ってた




「あかり、可愛くなったね」



昔は可愛くなかったってこと?



「顔は昔も今も可愛いけど」


あたしの髪をなでて



「内面的に可愛くなった。ヒカルくんのおかげかな?」



初めてそんなこと言われた



「あかりももう、女の子なんだねー」



生まれてからずっと女の子です


でも、言いたいことわかる



「だからね、もっと自分に正直になっていいんだよ?
ヒカルくんに甘えておいで」



どういう意味?



「一緒にいたいのに、門限がそれを邪魔する」



お姉ちゃんの意見は的を射る



「いいんだよ、破ったって!
そばにいたいと思う気持ちを邪魔する権利なんか
誰にもないんだから!」




胸を張って

お姉ちゃんも最近、帰りが遅い


お父さんもお母さんも
何にも言わない






「お姉ちゃんも、彼氏さんと一緒にいたい?」



あたしの唐突な質問に、お姉ちゃんは目をぱちぱちさせて

優しく笑った



まるで、花が咲いたみたいに
お姉ちゃんはキレイ






そっか
一緒にいたいからそばにいる
それは当たり前のことなんだ
だから気付かない





「ありがと、お姉ちゃん」



あたしももっとヒカルといたいから

切なさを勇気に変えてくれてありがとう




「お姉ちゃんダイスキ」
「相手が違うでしょ?」




顔を見合わせて笑った



今度会ったら、ちゃんと言おう
そばにいたいって










次の日曜
今日もヒカルに会える
今週は運良く、3回も会えた



今日こそ言うんだ
ヒカル
どんな顔するかな
困るかな
驚くかな
笑うかな
喜んでくれたらいいな




今日はちょっと遠出
駅で待ち合わせ



駅に着くとヒカルはもういて








「待った?ごめんね?」


ここまでなら、恋人同士の会話


「うん、待った」

ヒカルはあっさり切り捨てる
そんなはっきりと
普通は



「全然!」



とか言って、甘い笑顔を見せてくれるものじゃないの?
あたしの期待は裏切られ




「ふんだ!」

悔しいから、そっぽ向いてお返し




「ごめんって。嘘だよ」

ヒカルがぽんっと、あたしの頭に手をおいた





いつもの仲直りのパターン




「ほら、行こうぜ!」


ヒカルがあたしの手をとる



いつもリードしてくれるけど
ヒカルは照れ屋さん
その顔は真っ赤
ほんとは、人前でこういうことするの
恥ずかしいんだろうな





二人っきりの時は、たまに強引だったりするんだけどね
たまにね!たまに…








「あかりっておもしろいな」


気付けばあたしは
一人、百面相をしてて

ヒカルの声で元に戻った
それにしても

「面白い」

なんて言葉で戻されるなんて


「可愛い」
とか言ってくれるのが、普通のなんだろうけど



それでもヒカルの精一杯の愛情表現だから





「おもしろいって何よー?」
「言葉のまんま」



こうやって
くだらないことでケンカしたりできる
こんな時間が好き
だけど
ヒカルとじゃなかったら
きっと楽しくない




ヒカルが大好きだから
一緒にいられる時間が大好きなんだ


たくさん思い知らされる

あたしってほんと
ヒカルがいないとダメみたい








お昼時
喫茶店に入って、お話タイム

ヒカルの碁のこととか、あたしの学校のこととか
好きな人といる時間は、1番短く感じるから








「ねぇ、今度いつ指導碁打ってくれる?」
「明後日ならあいてる」
「じゃあ、ヒカルの家にお邪魔してもいい?」
「ああ」




約束をして
これで来週も会えるの確定










「そういや、あかり」
「何?」
「お前今日、何時まで?」



きた

頑張れあかり!

『今日は何時でもいいよ』



「えっと…8時まで…」




もうバカ!

何緊張してるのよ!いつもどおりに答えちゃった


ヒカルはにっこり笑って


「おっけー」




ヒカルは、あたしと一緒にいたくないのかな?
不安がよぎる




「そろそろ行くか」
「…うん」


そんなはずない
だって
会いたいから会ってくれるって言った
ヒカルは嘘つかない



せっかくのデートなのに
迷っちゃったあたしの負け










水族館でイルカのショーを見て
夜ご飯も食べて
ヒカルはあたしを家へと送る



「寄ってく?」

いつもの公園を指差す


あたしたちはブランコに座って
一言も話さない
何か話したい
だけど今、何かを言ったら、
自分が嫌いになってしまうことまで
言ってしまいそう
こんなにも時間を長く感じたこと
きっと初めて



キッ
という鎖の音と
ヒカルの土を踏む音が聞こえて


「行くか?」


ヒカルがあたしに手を差し出す



やっぱりヤダ
今日は一緒にいたいの
わがままだって言われても
思われても
決めたの


あたしは
ヒカルの手を取って



「…たくない…」
「え?」
「帰りたく…ない」
「何か…あったのか?」


あたしは首を振る


「じゃあ何で?」
「ヒカルと一緒にいたい…今日は、一緒にいたいの」




言っちゃった
ヒカルの顔が見れないよ
何かあったわけじゃない
家に帰れないわけでもない

ただ




「ヒカルのそばにいたいの」
「…あかり?」



困ったかな?
あきれてる?
こんなわがまま



何か言って


「ダメ」
って言われたら、笑顔で笑って帰るから



ヒカルは何も言わない
あたしも何も言えない



重い空気が流れて




「いいのか?」




ヒカルの少し低い声が聞こえた




あたしは黙ってうなづく
とたんに、腕に強い力を感じて
気付いたら、ヒカルの腕の中にいた



「あかり…」



いつもより力の入ったヒカルの腕に
少しほっとして
あたしは背中に手を回した



「んじゃ、今日は離さない」
「それはちょっと…」
「…どっちなんだよ」




言えば伝わるものなのね
あたしの一番のわがまま
叶えることができるのはあなただけ






そばにいたい
一緒にいたい
これからも
誰よりも






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ごんちちさまよりいただきましたお題『門限やぶり』です。
らぶらぶ恋人ひかりです。
あかりちゃん、初めての門限やぶり
お姉ちゃんに友情出演をしていただきました。
あかりちゃんの揺れる乙女心(笑)
あかりちゃんがあんなに可愛いのですから、
お姉さまも、かなりの美人さんだったりするのでしょうね。
妹に彼氏さんができて、いい相談相手になってくれています。
でも、からかって遊ぼうとも思っています(ぇ
お姉さまは、何といってご両親を丸め込んだのでしょうね。
それはお姉さまにしかわからないです。
それにしてもあかりちゃん。初めての門限やぶりと朝帰りが一緒ですか・・・
げふげふ(汗)いえ、こちらの話ですのでお気になさらず。

こんなのでよろしかったでしょうか?
少しでもお気に召されると幸いです。
お題提供、どうもありがとうございましたvv







2004.06.11
音羽桜姫 拝









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