泣かれると弱いんだ
でもキミは









キミは泣いて強くなる









その日俺は、いつもどおりに棋院に来ていた
今日は、研究会

ただ一つ違ったのは
あかりに呼び出されていたことだけ


最近、ろくに会えなくて
昨日電話で、映画に誘われた










『ヒカル?久しぶり!』
「おぅ、あかり!どした?」
『久しぶりの彼女からの電話に、随分なあいさつじゃない?』
「そんなことねぇよ。何か用事なんだろ?」
『まぁそうなんだけど』





あかりは苦笑して








『あのね、お願いがあるの』
「何?」
『先月の終わりに公開された映画なんだけど、見に行かない?』






あぁ、あの恋愛モノね








『来週末で終わりなの』





確か前に誘われた時
運悪く泊まりで仕事が入ってて
やむをえず、断ったんだっけ


あかりと会えるのは嬉しいんだけど
出かけるのがめんどくさい


俺たちのデートは、大抵室内だったりする





たまに食事にでかけたり
その程度の外食だ











『忙しいかな?』




なかなか返事を返さない俺に、あかりが遠慮がちに声をかける

電話の向こうで、どんな顔してるんだろう
ちょっと気になった
やっぱり寂しそうな顔してるのかな
可愛いんだろうな
なんて、アホなことを考える俺



お終いには、あかりからとどめの一言



『どうしても、ヒカルと見に行きたいの。ダメかな?』











ダメじゃない!
ダメじゃないって!

電話の向こうで、あかりのあまりの可愛さに、机を叩く




俺の彼女バカは
自他共に認めるところ

あかり以上の女は
そこらへん探したっていやしない







「その日、研究会があるんだ。終わってからでもいいか?」




ちゃんと話しておかないとな





俺の言葉のあとに
あかりの嬉しそうな声がして




『うん!一緒に行ってくれるなら!』









可愛いことばっか言いやがって
わかってんのかな?
俺があかりの言葉に振り回されてるってこと














『何時頃になりそう?』
「研究会は午前中で終わるけど、その後、和谷たちと打つから…3時頃でいいか?」
『うん!』
「どこに行けばいい?」
『私、棋院まで行くよ?』




あかりの気遣いが嬉しい
ほんと
俺は幸せ者だ




「わざわざ来なくていいよ」
『…でも…』
「大丈夫!映画館の前で待ち合わせにするか」
『うん!』




あかりの声が弾む
そんなに俺と出かけるの、楽しみなのかな?
うぬぼれてしまう




「じゃあ、日曜日に。」
『うん。またね』




お互い明るく電話を切った







今日この日が
あかりだけじゃない
俺だって楽しみにしてた










「進藤、今日調子がいいな!」



森下先生に言われた
自分でも何となくわかる



3時間の研究会を終えて
午後からはあかりと映画















「ほんと今日、お前調子良かったな」


和谷と帰り道で


「何か楽しそうだし。今日何かあるのか?」



俺ってそんなに顔に出るかな?





「あかりと映画見に行くんだ」
「あかりちゃんと?」
「ああ。出かけるのも久しぶりだぜ」
「あかりちゃんに同情するよ」


何でだよ








「あかりちゃんかぁ…可愛いよなv」



俺は無言で和谷をにらみ付ける






「おっと!これは禁句!」


和谷が「くっくっ」と笑いながら



こいつ
今のぜってーワザとだ
からかいやがって











「お前の独占欲には感服するよ」



あかりのことを可愛いって言えるのは
俺だけの権利だなんて
男なら当然思うだろ?






「楽しんでこいよ、デート。」
「うるせー」



言われなくてもわかってるさ
今だって楽しみなんだ


今日は久しぶりに食事でもして
ゆっくりするか


考えるだけで楽しくなって


映画館へ向かう足取りも軽くなる


















着くと、あかりはまだ来てなくて
約束の時間までは
あと15分

俺は壁にもたれかかる




「進藤?」



不意に、聞き覚えのある声に
俺は顔を上げる




「伊角さん!奈瀬!」



院生の時、世話になった二人
伊角さんは、和谷と仲がよくて
二人は付き合ってる







「進藤も、この映画見に来たの?」
「伊角さんたちも?」


「も」
ってことは、そうなんだろうな


「奈瀬が見たいって言うからさ」


伊角さん
ノロケてくれちゃって


「奈瀬。伊角さんみたいな良い彼氏で良かったな」


からかってやろうと思ったのに




「でしょ?あんたには真似できないわよね?」


逆にノロケられ、やりこまれる




「俺にはってどういう意味だよ?」


ちゃんと来てんだろ!



「彼女の前では、良い彼氏なわけ?」




からかうつもりが
仕返しされて






「じゃ、また後でね!
進藤の彼女見るの、楽しみにしてるわv」



余計な一言を残しやがって


俺はまた壁にもたれかかって


瞬間



「ヒカル」


あかりの声
俺は少し視線をおとして、見つけた






「よ!」
「久しぶり!」

いつものあいさつ
相変わらず小さいのな
前は俺の方が小さかったけど












「遅くなってごめんね」


と、言いながら
奈瀬たちが歩いて行った、映画館の入口をじっと見つめた




「あかり?」
「ううん、何でもない」





その様子が気にならないわけじゃなかったけど
映画も始まる時間だし
俺たちは中へ入った

あかりは、それから一言も話さずに
無表情のまま、スクリーンを見てた



ただ映画が放映されている間
俺の手をずっと握ったまま
離さなかった














終わったと同時に
あかりは急に明るく笑って



「楽しかったね」


そう言った

俺はあかりの様子が気になって
映画の内容を覚えてない



「ああ、うん」


あいまいに返事をして
あかりはにっこり笑って


おかしい
大抵こういう返事を返すと



「もう!ちゃんと見てなかったでしょ!」


って怒るのに


今のあかりは、怒ってる

あかりは俺より少し前を歩いて
俺は後に続いて
細いあかりの肩を見る

にしても
俺、何か怒らせるようなことしたかなぁ

思い当たらない




「ノド、渇かない?」



あかりは俺の方を振り返り、喫茶店を指差した



「ああ」


またあいまいに返事をして

今度は喫茶店に入る



あかりはにこにこと
ものすごい笑顔で俺の前に座る



「…何?」


気になるんですけど



「別に。」


返ってくるのはそっけない返事
何となく空気が思い

あかりはにこにこ
俺はどきどき
どきどきが、ヤバイどきどきなんだけど


この空気が嫌だ
壊すにはこれしかない



「あかり」
「なぁに?」
「…何か怒ってる?」


ぴくっと、あかりの眉が動くのが分かった
この状況から抜け出すには、はっきり聞くしかないと思ったけど

これが間違いだった




「別に…怒ってないけど?」


今までよりもさわやかな笑顔で
その笑顔が怖いんですけど




「何かあんなら、ちゃんと言えよ?」




言った瞬間
あかりの目から涙が



「あ、あかり!?」



突然泣き出したあかりに
俺はどうしていいかわからず


あかりはただ泣くだけ

回りのお客さんや店員さんが
俺たちを見る

こういうの、1番恥ずかしい

嫌なんじゃない
たぶん、あかりが泣いてるのは、
俺が関係してるから


だけど
泣かれると困るんだ
まだ怒っててくれた方が
なんて
勝手なことを思ってしまう

だけど
あかりの涙ほど苦手なモノってない

よく振り回す俺だけど
あかりが泣けば、立場は逆転
泣くと、あかりは強い
俺は勝てない










「ヒカルのバカ…」

え?
何?


聞き取れなくて


「あかり?」


あかりは下を向いたまま


「今、何か言った?」


聞こえなかった


俺の問いに
あかりはキッと
涙目で俺をにらんで


「ヒカルのバカ!」


店の外にまで響くくらいのでかい声で



突然、わけもわからずそんなこと言われて
おとなしく黙っていられる俺じゃない




「何で!」



何でいきなりバカなんだよ
そりゃバカだけどさ


回りが俺たちに注目する


あかりはこうなると
回りが気にならない
人前だろうが、平気で泣きわめく
俺がキスしようとすると恥ずかしがる癖に
自分はいいなんて
あかりも結構勝手かもしれない


怒らせたのは俺だけど



「あんな可愛い人がいながら、あたしのこと好きだとか言って!」



はぁ?
何言ってんだこいつ



「好きな人がいるのに、あたしに付き合おうなんて、そんなの悲しいよ!」



ますますわけがわからない
ただ一つわかるのは

あかりがとんでもない誤解をしてるってこと




「何言ってんだよ。
俺の話聞けって」
「やだ!」





ったくこいつ
変なとこで頑固なんだから


どうやってあかりに話を聞かせるか考えてたら












「進藤?」

さっきと同じパターン
奈瀬と伊角さんに出会う

映画帰りなんだろうな



奈瀬はあかりを見て

「この子でしょ?進藤の彼女って。
可愛いじゃないvv
初めまして、奈瀬明日美って言います!」





あかりに向かって、手を差し出す
あかりは不機嫌そうに
頭だけ下げる
いつもは愛想いいのに
誤解してる相手だから
無理ないのか?









あかりの目に気付いた奈瀬が



「あかりちゃん、泣いてるの?
ダメじゃない、進藤!こんな可愛いコ泣かせちゃ!」





原因は、お前にもあるんだけどな











「伊角くんみたいな彼氏なら、苦労しないのにね」



奈瀬の発言に、あかりはきょとんとした目に変わった

奈瀬は気付いていないらしく



「あたしは幸せね」

そう言いながら、伊角さんの腕に、自分の腕を絡めた


混乱したのはあかり


「えっ?だって奈瀬さんはヒカル…」
「?」
「…俺が説明する」



どうやらあかりは、伊角さんが見えていなかったようで
俺から話を聞いた奈瀬は



「あはははははっ」

笑いだす始末
伊角さんに気付いたあかりは、自分が勘違いしてたことに気付き、真っ赤になる
俺は内心、ほっとして












「あー!おかしかった!」


奈瀬はしばらく笑い続けた
そんなに笑うこともないと想うんだけど



「あたしと進藤がどうかなるなんて、地球がひっくり返ってもありえないわ」


そのたとえ方はどうかと










「そりゃ、言い奴だなーと思ったことはあるけど…」
「え?」


オイオイ


「でもあたし、年下に興味ナイの」
「…」
「あかりちゃん、あなた可愛いvv」
「そんなことないです…」



いーや
あかりは可愛い

俺は、心の中で
奈瀬に相槌を打つ











「進藤ね、ほんとにあかりちゃんのこと大好きなのよ」
「え…?」



余計なこと言わなくていいよ


「だからね、もっと進藤のこと、信じてあげて」



あかりは黙ってうなづいた
奈瀬もたまには良いこと言うじゃん



外に出てみると、外はもう暗くて

「今度、メールするわね!」
「はい!」



あの後
何かしらないけど、女同士で話が弾んで

「また会おうね!」
「はいっ!」



約束してるし
女ってわかんねぇ



あかりと二人で、伊角さんと奈瀬を見送って




俺たちも帰路につく













「奈瀬さん、いい人だったなーvv疑ったりして悪かったな…」
「俺は?」
「ヒカルはいいの」
「何だそれ」






納得いかねー









「そうだよね。あんな素敵な人が、ヒカルなんか相手にしないよね」


どういう意味だ?



「それに…」
「それに?」


あかりは振り返って


「ヒカルにはあたしで十分よね?」



不意打ちだって、もう


十分すぎるほどですとも
むしろ、お釣もでそうなくらい




「あかり」

俺はあかりを引き止めて


「何?」



振り返ったあかりにキスをした



「ヒカル!?」
「仕返し」



疑ってくれた分の

そんなに怒るなよ
怒ってもあかりは可愛いけど
なんて
俺もかなり、あかりに依存してるかも


あかりは泣くと強くなる
俺は勝てない
それはきっと、それだけ相手が大切だから








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有閑さまより頂きましたお題『怒る』です。
タイトルを少し変更させていただきました。
今回は、奈瀬ちゃんと伊角さんに友情出演をしていただきましたー。
あかりちゃんに振り回される進藤さん。
奈瀬ちゃんに振り回される伊角さん。
どっちもどっちです。独占欲だけならば、ダントツに進藤さんが勝ってると思いますが。

怒ったあかりちゃんが見たいというリクエストだったのですが、どうでしょう?
最初は違うネタで描いていたのですが、何故かお話が変わっていってしまい・・・
急遽このネタになりました、すみません(滝汗)
うちのあかりちゃんは、怒ると泣きます。
最初は笑顔で。泣きます。そして進藤さんを困らせます。
何だかまだ描き足りない気がするんですけど・・・(><)


こんなのでよろしかったでしょうか?
少しでもお気に召されると幸いです。
お題提供、どうもありがとうございましたvv








2004.06.15
音羽桜姫 拝











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