おおげさかもしれないけれど
その時はほんとに













天使














「…ありません」
「ありがとうございました」





二次予選
相手は森下先生
正直
勝てると思ってた

最近の調子は上がってて
どんな相手でもひるむことなく
おくすることなく向かっていって
気後れなんかしちゃいない

いつもの

自分の碁が打ててるはずだったのに















先生に言われた









「勝負の場での経験がものを言うんだ」










響いた


確かに俺は
そう言った面での経験が少ない
負けたくない気持ちがあったとしても
それだけで勝ち上がることはできないのだと
足りないものがあるのだと



思い知らされた言葉だった

















「そんな日もあるさ」


って
みんなは励ましてくれたけど



ゆっくりなんて
そんな悠長なこと言ってられないんだ
一歩一歩進んで近付いていくんだって
あいつが目指していた大切なものに
近付いていくんだって
誰よりも先に

あいつの望みを叶えてやりたい
それができるのは俺しかいないから





だけど
ライバルはどんどん先へ進んで
近付くどころか
未だ追いつくことすらできない
今日負けて
さらにそれを思い知らされた






『弱気になるな』


って思っても
不安がつきまとうんだ









落ち込んでも仕方ないんだ
前へ進まなきゃ
俺ができることをしなきゃ
悩むのはそのあとでいい


















少し暗くなった公園に差し掛かった時

何だか優しい歌が聞こえてきたんだ
立ち止まって聞いてみると
どこかで聞いたことのあるような


包みこんでくれるような
柔らかい歌声















「あかり?」















そうだ
あかりだ


でも何でこんなとこで歌なんか





公園をのぞきこむと
ベンチに座ってるあかりが見えた


やっぱり






まだ歌ってる
俺の好きな歌



















「あかり!」
「えっ?」




俺の声に驚いたのか
あかりの歌声はとまった






「ヒカル…」
「お前、こんなとこで何してんの?」
「え…えっと…」
「今、歌ってたろ?」
「えと…あの…」







なんだ
何でそんなに挙動不信?














「何となく、歌いたくなって、つい…」





何となくなんだ
こんな時間に





「危ないじゃん」
「え?」
「こんなとこ、一人でいたら」
「危なくないよ」
「危ないって!あかりだって女の子なんだからさ」
「…ヒカル」
「一応」
「ヒカル!」





『もう!』





なんて言いながら怒ってみせる幼なじみに
何だか少しだけど
悩みが飛んでいった気がした












ああ
そうか













「ありがとな」
「何が?」
「別に」
「何よぅ!」
「何でもないって
ほら、帰ろうぜ」






俺はあかりに手を差し出した
あかりは恥ずかしそうにうつむいて
うなづいて俺の手を取った




あかりがここにいたのは

たぶん


俺のため





結果知ってるんだ




だからいたんだ
そこに




気付けばいつもそばにいてくれる
振り返ればいつも
あかりはいてくれるんだ


















「また、今度があるよ」







あかりがぽつりと言った
やっぱり知ってるんだな





「そうだな」





その言葉をゆっくりとかみしめて
あたたかく響く声に、安堵感を覚えて




「ヒカルなら、大丈夫
あたしは信じてるから」










勝手に期待されてもな



だけど
あかりが言ってくれると何となく
何となくだけど
次はやれそうな気がした











「さんきゅ」






俺の言葉にあかりは笑って

また歌を歌い出す
さっきよりも響く歌声で



















「ありがと。ここでいいよ」
「ああ」








公園からあかりのうちまでは5分
その間
つないだ手を離すことなく



離した瞬間に
その手のぬくもりが残る















「頑張ってね」




あかりはまた笑って






そういやこいつ
俺がどんなに悩んでても、笑ってるよな





そんなあかりだからこそ
勇気になるのかもしれない









「じゃあね」





そう言って分かれようとあかりを見送った時




羽が見えたんだ
あかりの背中に
















「あかり!」




俺は思わず引き止めて
あかりは振り返る




「何?」



って聞き返すあかりに
羽は見えない


きのせいだったのかな
羽なんか生えてるわけないもんな

だけど
確かに見たんだ
白い羽を















「何?」



ただ、じっとあかりを見る俺を不思議そうに

あかりは再び尋ねる




「あ、ごめん。何でもない」





俺は苦笑して


見間違いだな
ありえない










「そう?」




少しだけ納得がいかないような顔をして
あかりはまた踵を返す








「じゃあ、行くよ?」
「ああ。気をつけろよ」
「すぐそこだもん」









笑って
振り返ったあかりに
また羽が見えたんだ


そっか
近くでは見えないんだ
俺にしか見えない



おおげさかもしれないけど
そのとき俺は本当に俺は

「天使」みたいだって






その天使を手に入れたい

あらためてそう思った











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有閑さまよりいただきましたお題・『天使』です。
天使なあかりちゃんです。
羽が見えました。勇気をくれる温かい羽です。
進藤さんはその羽に包まれて、温かい夢を見るのです
ドリーマー(笑)
少女漫画チックですね。
お話は、森下先生との一局の後です。
本当は恋人ひかりにしようと思ったのですが、恋人未満なひかりになりました。
もちろん基本は両想いですがv
和谷さんがあかりちゃんに連絡しました。
「進藤負けた」って。あかりちゃんは進藤さんが頑張っているのを知っていたので。
何も出来ないのはわかっていても、待っていられずにいられなかったのです。
公園で1時間以上も、進藤さんを待ってました。
思いのほか元気だった進藤さんに、ちょっとびっくりしてたりなんかして。
本当は励ましたいけど、言葉で言うだけなら何とでも言えることを知っているので
簡単に励ますことはできないのです。自分の無力さを思い知って、それでも力になりたくて。
揺れる乙女心vv(笑)
何だかちょっと話が変わってしまったのですが。進藤さんにとってのあかりちゃんは天使に見えたと。
あかりちゃん7変化。進藤さんのためならば、何にでもなります(ぇ)
いいコだ、あかりちゃんvv大好きvv

こんなのでよろしかったでしょうか?
少しでもお気に召されると幸いですv
お題提供、どうもありがとうございましたvv










2004.06.26
音羽桜姫 拝










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